コイカゼ・ダイブ【ars M.A】 (ページ33)

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33.リレー・センシュ。ページ33

背筋を伸ばして凛と立つその姿。

空を見上げて、口をギュッと結ぶ。

赤いハチマキが、茶色い髪と一緒にサラリと靡く。

何て、綺麗なんだろう

「A！」
「あ...トモちゃん」

校庭の端に立ち尽くしたまんまの私の元に、トモちゃんが走り寄って来た。

「始まるよ、リレー」
「ん...」
「櫻井先輩、頑張れ...」

体操服に着替えた櫻井先輩を、トモちゃんはジッと見詰める。

自分のチームの事なんて、二人とも全然考えられなくって

自分が走る訳でも無いのに、ドキドキして

スタートの号砲が鳴った時

私達は、無意識に祈るように両手を組んでた。

ずっとB組が先頭を走ってて、本当は喜ばなきゃいけないトコなのに全然嬉しいと思えない。

第3走者の櫻井先輩は、4位でバトンを受け取った。

眉間にギュッと皺を寄せた険しい顔は、いつも穏やかに笑ってる櫻井先輩からは想像出来なくて

先輩が一人抜いた瞬間、トモちゃんはそこにしゃがみ込んだ。

3位になった櫻井先輩が、アンカーの相葉先輩に向かって走って行く。

「翔ちゃん！」

ピョンピョンとその場で跳んで、大声で櫻井先輩を呼ぶ。

「雅紀っ！行けっ！！」

バトンを受け取った相葉先輩は、その瞬間、ほんのほんの一瞬だけ

ニッ、と笑った。

心臓がギュッと縮む。

文字通り、風を切って走る姿に、何でだろう...泣きたくなる。

もう決まってたシナリオのように、2人を抜き去り先頭で走る相葉先輩。

ゴールテープを切った相葉先輩は、顔中を笑顔にして

待ってた櫻井先輩に抱き付いて

櫻井先輩も八の字眉毛で、笑ってる。

「キター！オレの勝ちー！」
「凄いなぁ、相葉くん」
「アイツ、運動だけは出来るのよ」

どうやら、私達の後ろで見てたらしい二宮先生と大野先生の会話が聞こえてきた。

・

閉会式、優勝旗を受け取る櫻井先輩の頭には

もう、ハチマキは無くて

トモちゃんは「やっぱりねぇ...」って、ちょっと悔しそうに笑ってた。

そして相葉先輩は、どこにも居ない。

帰っちゃったのかな...そう思いながらも、私は閉会式が終わってから校舎の中を走った。

もしかすると、居るかもしれない。

だって、ハチマキの約束があるから。

勝手に帰ったりしないって思いたい。

あの窓から裏庭を覗くと、すぐにその姿を見付けた。

大きな木の下

太い幹に凭れて

気持ち良さそうに眠る、相葉先輩。

だけど、近付けなかったのは

隣に若林先輩が、相葉先輩の肩に頭を乗せて

寝てたから。