コイカゼ・ダイブ【ars M.A】 (ページ19)

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19.ダッソウ・ホウジョ。ページ19

相葉先輩は傍らに置いてあったリュックを担ぐと、パンツのポケットに片手を突っ込んだ。

その手はすぐに引き抜かれて、出て来た手には緑色のパッケージのガム。

一枚ガムを取り出した相葉先輩は、それを食べてモグモグと口を動かしてるだけでも...格好イイ。

見惚れてるのをバレないように、こっそりチラ見を繰り返してると

相葉先輩が「食べる？」ってまだ何枚か残ってるその緑のパッケージを、私に差し出してくれた。

「えっ！？」
「ガム、食べる？」

ニコッと笑った相葉先輩は、私に近付いて来て「はい、どーぞ」って少しだけ腰を屈める。

背の高い相葉先輩の顔が、ほんの少し近付いて

ふわりと、ミントの匂いがした。

「あの...」
「遠慮してる？」
「えっ...」
「遠慮なんてしないでよ？友達なんだから！」

キラキラの笑顔に、私の心臓がついて行けてない。

アワアワなってる私を見た相葉先輩は、クスッと笑ってガムを一枚取り出し私のセーラー服の胸ポケットに入れてくれた。

「んー...っ！」

両手を挙げて伸びをした先輩のお腹が、シャツの隙間からチラッと見えて

見ちゃダメな物を見てしまったみたいに、ドキンとする。

水着姿が見たいとか言ってたくせに、これだけで目眩がしそう。

「じゃ、俺帰るね！」
「...えっ！？ホントに...帰っちゃうんですか？」
「フフッ、またね！Aちゃん！」

シャツの袖を肘まで捲りあげた腕を軽く振って、白いハイカットのごっついスニーカーで相葉先輩は駆け出す。

「バイバイ！」
「あっ...はい！さよなら！」

髪の毛にふわふわと風を受けて走り去る後ろ姿を見てると

自然と口角がニヤッと上がってしまって、ギュッと唇を噛んだ。

「あーもー止めろよー、大坂」

込み上げて来るニヤニヤと戦ってる私の背後で、つまんなそうな声が聞こえ心臓が止まりそうになる。

振り返ると、窓に両腕を乗せてその腕に顎を置き私を見てる二宮先生。

「先生...」
「今、相葉の事逃がしただろ」
「逃がしたって...ゆーか...」
「立派な脱走幇助だぞ？」

二宮先生は、小さく溜息を吐き出すと「ま、次は止めてやってね？アイツの為にもさ」って珍しく優しい顔で微笑んだ。

「相葉先輩の為...ですか？」
「脱走ばっかしてて、良いと思う？」
「...思いません...」

先生は「でしょ？」って小首を傾げる。

その姿を見て『二宮先生ってすっごい人気あるんだよ！』ってトモちゃんが言ってたのを、思い出した。