コイカゼ・ダイブ【ars M.A】 (ページ16)

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16.キラキラ・リーマン。ページ16

電車通学の私は、帰りの電車の中で大野先生が書いてくれたメモを眺めてた。

先生が水やりの当番に当たってる日が記されてる。

「国語の先生みたい...」

思わず呟いちゃう程、綺麗な文字。

何だったら、二宮先生の文字より綺麗かもしれないなぁ。

そんな事を考えながら、もう何度も何度も眺めてるメモを、もう一度ジックリと眺める。

花壇に水をやりに行けば、相葉先輩に会えるかもしれない...そう思っただけで大野先生からのメモが宝物みたいに感じて

丁寧に折り畳んで鞄から取り出した手帳に挟んだ時、電車は最寄り駅に着いた。

駅には仕事帰りの人達や、私のような学生がたくさん居て家路を急いでる。

疲れた顔がいっぱい居るその中で、きっと私は一番浮かれた顔をしてるんじゃないかなー？なんて、ウキウキと歩いてた。

「A？」

突然、背後から呼ばれた名前に驚いて振り返ると

「やっぱ、Aだ」って微笑む、スーツ姿のサラリーマン。

「潤ちゃん！」
「A、今帰り？」
「うん。潤ちゃんも？」
「そ！あー、疲れたー！早く帰って一杯飲みてぇ！」

15歳上の潤ちゃんは、私が産まれた時から隣の家に住んでいた『お隣のお兄ちゃん』

けど潤ちゃんは大人になって実家の近所のマンションに引っ越したから、なかなか会うことは無くなってた。

「お！そー言えば、Aの女子高生姿って初めて見るな！」
「潤ちゃんの母校の制服だよ！」
「そのセーラー、懐かしいー」

目を細めて、私を上から下まで見て「似合ってるじゃん」って笑う顔は

昔から変わらなくて、ちょっと眩しい。

「でっかくなったなぁ、A」
「何か潤ちゃん、おじさんみたい」
「もー30だよ、俺。立派なおじさん」

あー、暑い...って呟きながらネクタイを緩める潤ちゃんはおじさんになんか見えなくて

くたびれて歩く周りにたくさん居るサラリーマンと、全然違う。

「『潤ちゃんのお嫁さんになるのー！』なんて可愛い事言ってくれてたAが、もう女子高生か」

私の、初恋の人。

初めて失恋をした、相手。

私が中1の時、潤ちゃんは綺麗な彼女と結婚した。

「あ、もしかしてもー彼氏とか居たりすんじゃないの？」
「いないよ！...いないけど...」
「けど？」
「あのね、潤ちゃん...」

私は、初めて潤ちゃんに『好きな男の子』の話をした。

ずーっと好きだった潤ちゃんに、こんな話をする日が来るなんて

「青春だな！A」
「青春だね！」

人生って分かんないもんだね。