コイカゼ・ダイブ【ars M.A】 (ページ14)

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14.スウガク・ジュンビシツ。ページ14

放課後、私は普段あんまり近寄らない場所に居た。

私のクラスの担任は数学の先生なんだけど、職員室よりも数学準備室に居る事が多い。

その担任に話したい事があって、渡り廊下の向こう側

三年生の教室もある校舎の廊下を数学準備室に向かって、歩く。

相葉先輩の教室は三階。

私が歩いてるのは、一階。

先輩と会う事は無いだろうって思うのに、やっぱりドキドキとしてしまう胸をそっと押さえながら準備室の前に着くとノックをしようと軽く拳を握った。

コンコン、とドアを叩くと中から「はーぁい」って間延びした声。

「失礼します」
「はい、どーぞぉ」

準備室の中は、電気を点けて無くってちょっと薄暗い。

その薄闇の中に、白衣を着た後姿。

先生が首だけをこっちに向けて振り返り、緩く微笑む。

「おぉ、大坂さん。どうしたの？」
「大野先生、ちょっと相談があるんですけど...」
「おれに答えられるような相談？恋愛相談とか、無理だよ？」

クスクス笑いながら、大野先生は立ち上がって私が座れるようにパイプ椅子を広げてくれた。

「座んなよ」
「あ...はい」
「ちょっと待ってね、片付けるから」

さっきまで先生が向かい合ってた、イーゼルに乗った絵。

その絵の前で、画材を片付けてる先生。

数学の先生なのにいつも白衣を着てて

その白衣は、絵の具で汚れてて

もう、何科の先生なんだか分からない出で立ちで大野先生は数学を教える。

噂では『数字オタク』らしい。

確かに、絵の他にもホワイトボードには呪文にしか見えないような数式がツラツラと書かれてる。

「大野先生は数字と絵と、どっちが好きなんですか？」
「んー？どっちも好きだよ」
「じゃあ何で数学の先生になったんですか？美術じゃなくって」
「絵は仕事にしたくなかったから。趣味」

筒型の容器に入ったウェットティッシュをズルッと引き出して手を拭きながら、大野先生は椅子に腰掛けた。

「で？相談って？けどおれ、そんなに大したアドバイス出来ないと思うんだよねぇ...」

うなじをポリポリと掻きながら、普通なら「先生に任せろ！」とか言うべき所でそんな弱気な発言。

「あ、恋愛相談とかじゃないですから」
「そうなの？だったら大丈夫！」

安心したー...とでも言ってるような笑顔。

二宮先生も先生らしくないなって思うけど

大野先生も、違った意味で先生らしくないなと思う。