コイカゼ・ダイブ 6th【ars M.A】 (ページ35)

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210.ハル・ニハ。ページ35

うちまで帰る途中に、私が小さな頃によく遊んでた公園がある。

そこで先輩が立ち止まった。

「ねぇ、Aちゃん...」
「はい」
「もうちょっとだけ、大丈夫？時間...平気？」
「...うん」

頷くと、先輩が「じゃあ、寄り道！」って私を公園の中に引っ張る。

砂場の前にある鉄棒で、先輩が軽く逆上がりをした。

「久々に逆上がりした！」
「私も出来るかな？」

ちょっとやりたくなって鉄棒に手をかけたら、先輩が慌てて私を止める。

「駄目だって！Aちゃん！」
「え？」
「だって...スカートだよ...？」
「...あっ！！」

自分が制服だったコトを思い出して、一気に恥ずかしくなる。

「俺は別に良いけど...する？逆上がり」
「しっ...！しませんっ！！」

慌てて鉄棒から離れて、走って公園の端っこにあるベンチに座った。

先輩は笑いながら隣に座って「あーあ、止めなかったら良かったなー」って、私の顔を覗き込む。

何も言えなくって、顔を逸らした私のほっぺをツンツンってつついて「Aちゃーん、こっち見て？」って言う先輩に「やです！」って言うと

「ねぇ、Aちゃぁん」って、あまーい声で呼ばれて

その声をまた聴きたいから、ずっとツーンってしてたら「もうっ！」ってほっぺを両手で挟まれてグイって先輩の方を向かされた。

「...っ！」
「こっち見てって言ってるのに」

きっと、ほっぺムギュってなっちゃってる。

恥ずかしい！変顔になってる！

なのに、先輩は絶対にムギュってなってる私にキスをして「フフッ、ちょー可愛い」って笑った。

「あ、そうだ」

先輩が、私のほっぺを離して「良いニュースがあるの！」って人差し指を立てる。

ドキドキしたまんま、「良いニュース？」って訊くと

「翔ちゃん、大学生になるよ！」

言った瞬間に、先輩は目をギューって閉じて「ホンット良かったー！」ってちょっとジタバタする。

「本当ですか！？」
「うん！合格したって！」
「凄い！ホント凄いですね！」
「うん、翔ちゃんは凄いよ！」

相葉先輩がいっぱい応援してたのを思い出して、私もジタバタしたくなる。

「俺も春には専門学生だし...」

少しだけズキンとする胸。

「あのね、Aちゃん」
「...はい」
「俺、四月から一人暮らしするんだ」
「え...？」

『一人暮らし』なんて言葉、私には縁が無かった。

高校生じゃなくなる先輩が、一人暮らしをする。

その事が、何だか分かんないけど胸がギュ...って痛くなった。