コイカゼ・ダイブ 6th【ars M.A】 (ページ32)

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207.ダメ・ダヨ。ページ32

先輩が真ん丸な目をして、私を見る。

ふっくらした唇が、小さく開いて、またすぐにギュっと閉じられた。

そして、私を見てた目がス...っと逸らされて

私は自分が『面倒臭い女』になってしまったのかもしれない！って、突然怖くなった。

「あっ...あのっ...先輩...」
「Aちゃん、駄目だよ」
「...え？」

怒ってる...？

「駄目だよ、そんなコト言っちゃ」
「あ...そ、ですよね...ごめんなさ...」
「我慢できなくなっちゃうでしょ！もう、バカッ！」
「へっ？...え」

先輩が、チュ、ってほっぺにキスをした。

いっぱい人のいる駅前で、恥ずかしいけど嬉しいの方がおっきくって

ドキドキして、掴んでたスタジャンの裾をもっとギュウウウって強く握った。

「ホントにチューしたかったのは、ほっぺなんかじゃないんだからね！」
「...あ...えっと...」
「全くもう！」

何だかプンプンしてる先輩が、可愛くって笑ってしまう。

「でも...」

裾を掴んでる私の手を取り、指を絡めた先輩が呟く。

「やっぱすっごい嬉しかったから、そーゆーのもっと言って？さっきの『言っちゃ駄目』ってゆーの、取り消し！無しね！」
「え...」
「あ！だけど...」

少し照れ臭そうに俯いた先輩は「出来れば二人っきりの時に言って欲しい...かな」って言うと、顔を上げてニィっと笑った。

「帰ろっか！」
「...あっ、はい！」

ドキドキが止まらないまま改札を通り、ホームへ下りる。

手を繋いで、電車を待つ。

「Aちゃん」
「はい？」

切り立ての先輩の髪が、ふわりと風に靡く。

「俺も、会いたかったよ。めっちゃ会いたかった」

耳に口を寄せられて、小さな声で囁かれる。

その声はいつもより、少しだけ低くって掠れてて、胸がギュウって縮んだ。

何だか変な気持ちになる。

「...ダメです」
「え？」
「先輩だって...そんなの二人っきりの時にして下さい...！」
「あれ？フフッ、チューしたくなっちゃった？」

意地悪に私の顔を覗き込んで来た先輩の目が見れなくって

コクン、って頷く。

「っ...！」って先輩が声になってないような、よく分からない声を出した時

電車が来た。

その電車に乗り、並んで座る。

「...Aちゃん、後でね？」
「え？」

先輩が、また耳元に口を寄せる。

それだけでドキドキするのに

「後で、しよーね」

ヒソヒソ声でそんなコト言われて、きっと私の顔は真っ赤。

絶対にユデダコみたいになってるんだ。

幸せなユデダコだ。