コイカゼ・ダイブ 6th【ars M.A】 (ページ31)

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206.イエナ・カッタ。ページ31

１人で帰る駅までの道。

ドーナツ屋さんを見ると、先輩のコト思い出して会いたくなっちゃうから見ないようにしたり。
制服で手を繋いでるカップル見たら寂しくなるから、目を逸らしたり。

専門学校の入学準備とかで先輩はちょっと忙しいみたいで、なかなか会えない。

LINEは毎日来るし、電話も時々してるけど...「会いたい」って言えない。

ほら大人がよく言うでしょ？
『面倒臭い女』...みたいな。

ちょっとよく分かんないんだけど、「会いたい！会いたい！」って言うのは『面倒臭い女』なんじゃないかなって思ったら言えない。

でも、本音は会いたい。

会いたいなー...って毎日、思ってる。

ハァ...と溜息をつきながら、定期入れを出した時

スマホが震えた。

いつもその振動の度に「先輩かな！？」って思う。
先輩だったら大喜びで、先輩じゃ無かったら相手には失礼なんだけど「なぁんだ...」って思っちゃう。

スマホのこんな小さな震えにも、私は一喜一憂。

フゥ、と短く息を吐き出してスマホを見る。

「...先輩だ！」

やったー！って言い出したいのを我慢して、LINE画面を開いた。

『Aちゃん、もう帰る？』

もう帰る...？って、何だろう。

でも、実際もう帰るから『今から電車乗って帰ります』って返すと、既読がすぐに付いてその直後着信。

「あっ...！はい、もしもし！」

まさか電話がかかって来るとは思ってなかったから、少し手が震えた。

もしかすると、声も震えてるのかもしれないけどそれは自分じゃ分かんない。

「もしもし、Aちゃん！もう帰る？」
「え...帰ろうかなって思ってるけど...何でですか？」
「俺、居るんだけどな」
「居る...ってどこに...」

「ここに！」...って声は、電話じゃなくって真後ろから聴こえて

慌てて振り返ったら、一番会いたかった人が笑って立ってた。

「先輩...」

あ...髪切ってる...カッコイイ...

カッコイイ、格好良すぎて何も言えない。

「Aちゃん帰ってくんの、待ってたの！」
「......」
「最近、会ってなかったでしょ？」
「......ん」

うんうん、って頷くので精一杯。

「一緒に帰ろ！家まで送るよ」
「...うん...」
「あ、俺髪切ったんだぁ」

カッコイイです。

「先輩...」
「ん？」

先輩のスタジャンの裾をギュウっと握る。

「...会いたかったです...」

会いたかった。

会いたくって会いたくって、でも会えなかった人にやっと会えたら

会いたかった、って伝えたくなるんだね。