コイカゼ・ダイブ 6th【ars M.A】 (ページ28)

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203.アフレル・コボレル。ページ28

先輩の長い睫毛が揺れる。

さっき食べてた苺が香る。

ふっくらした唇の隙間から零れる小さな息遣いに、胸がギュウウって苦しくなる。

重なってる先輩の掌に少しだけ力が入ったのに気付いて、身体が強張る。

「...Aちゃん...」
「...はい...」

先輩の眉間に、皺が入った。

小さく開いてた唇は一瞬グっと閉じられる。

そのまま俯いた先輩は

「...そんな顔されたら...俺...」

何だか苦しそうに、そう言った。

「え...？」

そんな顔、がどんな顔なのか分からなくって

空いてる方の掌で思わず自分の口元を押さえる。

ゆっくり視線を上げた先輩が、口元を押さえてる私の手を

そっと外した。

お互いの前髪が触れ合って、息も出来ない。

先輩の瞬きの音まで、聴こえて来そうな気がする。

その瞬きが、綺麗過ぎて泣きそうになる。

強く握られてる手首が、痛いのに、ずっと離さないで欲しい。

「...あっ、ケーキ！切らなきゃね！ナイフとかお皿とか...取って来る！」

突然、先輩が私の手首を離して立ち上がろうとした。

離さないでって思ってた手首から、先輩の手が離れてしまって

寂しくて

いやで

そばに居て欲しくて

「...行かないで、下さい...！」

気付いたら、私は必死に先輩の腕を掴んでた。

「Aちゃん...？」

中腰になってた先輩が、もう一度ペタンと座る。

「...どしたの？」

顔を覗き込まれて、ドキドキして

苦しくって、やっぱり泣きそうで

「私...」

想いが溢れる、なんて言葉

知らなかった。

知らなかったんだ、私。

「...好きです...」

でも溢れるんだ。

想いはポロポロって、零れ落ちるんだ。

「先輩が好きです...」

ギュウ...っと先輩の腕を握る。

ビックリした顔で、先輩が私を見下ろす。

「Aちゃん...」
「......」

ドキドキは、信じられない位に私の胸を内側から打ち付けて

イタイ。

胸がイタイ。

「先輩のコトが...私...」

ずっと、って言おうとしたけど

先輩に抱き締められて、言えなかった。

「...良かったぁ...」

耳元で、先輩の声がする。

「Aちゃんに『好き』って言って貰えるまでは...ダメだと思ってたんだ...」
「え...？」
「...俺も好き...」

身体に隙間が出来て、先輩がコツンと私のオデコにオデコを当てて

睫毛と睫毛が触れて

鼻と鼻が触れて

最後に唇が、私の唇に触れた。