コイカゼ・ダイブ 6th【ars M.A】 (ページ24)

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199.レンアイ・シナン。ページ24

私、相葉先輩に『好き』って一回も言ってない。言えない。

手の甲を二回ノックしたら『好き』のサインね、って言われた時も私はしなかった。出来なかった。

だって、恥ずかしい。

好きって伝えるの、恥ずかしい。

それに、付き合ってるんだから私が先輩を好きなのは言わなくたってちゃんと伝わってるはずだもん。

「女子はさぁ、言ってくんなきゃ分かんない、とか言うの」
「え...？」
「あー、大人女子はね。よく言うんだよ、そーゆー面倒臭い事。こっちは『言わんでも分かるだろうが』って思うんだけど」
「あ...はい...」

私も思った、今。

言わなくっても分かるはずだって。

「でも、実際言われなきゃ分かんねぇもんなの。恋人っつっても他人なんだもん、何考えてるかなんて口に出してくんなきゃ分かんない」
「......」
「照れ臭くても、言えば相手も喜んでくれるんだったらそれもサービスって言うかさ。愛情表現ってやつ？」
「サービス...」
「究極のサービス提供のし合いだよ、恋愛って」

口角を緩ませて笑うと、先生は立ち上がる。

「そろそろ五時間目、始まるな」
「あ！ホントだ...」
「ま、オレの意見は極端だかんね。参考にはならんかったかもしれないけど」
「そんなコト無いです、...えっと、ありがとうございます」

私も立ち上がる。

「あ、ちなみに...」
「はい？」
「オレのファーストキスは16歳でしたー」
「......」
「フハハッ！何だ、その微妙な反応。お前が訊いたんだろうが！」

ポコンと先生に頭を小突かれて「そんなに興味がある事でもありませんでした...」って言うと

「そう言えば昔、同じコトをオレに訊いて来た奴が居たから正直に答えてやったら、ソイツ泣いてたな」って、何だか懐かしそうに先生は笑った。

「泣いた？何でですか？」
「ショックだったらしいよ？オレがキスしてたってのが。良い大人がキスもした事無い方がよっぽどショックじゃね？って思うんだけどね」

先生が準備室の扉を開いて「ま、頑張れや。恋も、勉強も」って私の背中を軽く押した。

五時間目の始まる教室に向かって廊下を歩きながら

先輩に「好き」って言ってなかった自分の事を考える。

先輩は想いをちゃんと伝えてくれてるのに、私は『言わなくっても分かってくれてる』なんて思って。

「...言わなきゃ、分かんない...」

頭の中で先輩に「好き」って言ってみるとそれだけで心臓が破裂しそうになって

そのドキドキを誤魔化すように、思わず廊下を走った。