コイカゼ・ダイブ 6th【ars M.A】 (ページ22)

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197.ダンシ・コーコーセー。ページ22

「で、何よ。付き合い始めたのに相葉がキスしてくんないっての？」

先生が立ち上がってパイプ椅子を広げながら、私に質問をする。

「...してくんない...ってゆーか...」

用意して貰ったそのパイプ椅子に腰掛けながら、私は答える。

正しく言えば、キスはしてくれた。

その場所がほっぺとオデコだったってだけで...

「ンフフ。大坂はしたいのに、相葉がしてくんないんだ」
「えっ！？ちがっ...！...したいってワケじゃなくって...」
「じゃなくて？」

自分の椅子にまた座った先生が、小首を傾げながらちょっと前屈みになった。

「...もしかして、我慢...とか...させちゃってるのかなぁって...」
「我慢？相葉が我慢？」
「...先輩はきっといっぱい女の子と、そーゆー...えっと、そーゆーコトしてるんだと思うんですけど...」
「んー、そこは...まぁ相葉ヤンチャだからオレが無責任に『そんな事無いよ』と否定は出来んけど」

ホクロのある顎をスルリと撫でながら、先生がちょっと唇を尖らせる。

こんな話をしてるからか、いつも以上に教師っぽく見えない。

「ですよねぇ...でも私が全然、恋愛経験とかって無いから...」
「あー、なるほどな。それで自分に合わせて相葉は我慢してんじゃねぇのか？ってコトね」
「...はい」
「ホントは『すぐにでもしたいのに！』って思ってんじゃねぇの？ってコトね」
「......はい」
「相葉に無理させてるような気がすんのね？」

先生の言葉に、コクンと頷く。

前屈みだった身体を、元の位置に戻しながら先生はフッと笑った。

「とりあえず、大坂の最初の質問な？『男子は付き合ったらすぐにでもキスとかしたいか』ってヤツ」
「はい」
「その答えは『したい』だな。そりゃしたいだろ、オトコなんだから」
「......」
「言葉を失くすな。引くな。自分が訊いたんだろうが」

クフフ、って笑った先生が「好きって、結局そーゆー気持ちだって含まれてんだろ？」って片眉を上げる。

「しかも相葉はまだ高校生だからな。オレよりその気持ちはあるかもしんない」
「...そ...なんですか？」
「オレの経験談で言えば、18歳の頃なんてそんなコトばーっか考えてたわ」
「う...っそ...」
「男子高校生に幻想を抱くなって。そんなモンよ、どんなに爽やかでもどんなに男前でも」

少しだけ、確かに幻想を見てたかもしれない...って思った。

先輩はワルイコだけど格好良くって優しくって、漫画の中のヒーローみたいな。

そんな風に思ってた気がする。