コイカゼ・ダイブ 6th【ars M.A】 (ページ21)

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196.ジンセイ・ソウダン。ページ21

その日の昼休み、お弁当を食べた私は皆から集めた現国の課題を抱えて国語科準備室へを向かってた。

コンコン、とノックすると中から「はいよー」って声がする。

「失礼します」
「はいはい、御苦労」

椅子に座ってPCのキーボードを叩きながら、こっちに首を向けた二宮先生が口の端を上げて笑った。

「ここに置いときますね」
「うん、サンキュ」

先生はまた、PC画面に目を向ける。

「...あの、先生」
「んー？」
「ちょっと...質問、良いですか？」
「何か分かんない問題あったかー？」

カタカタと、キーボードを叩く音。

Enterキーを押す時は力が入るらしくってその時だけ、タンッ、って一際大きな音がする。

「先生のファーストキスって、いつですか？」

何となく規則正しく鳴ってたキーボードの音が、突然ダダダッて乱れた。

「お前...何言ってんの？うわ...打ち間違えたじゃん...」
「え...？何か...男の人が初めてそーゆーコトする年齢って、いくつくらいなのかなー...と思って」
「そーゆー...って、お前...」
「...あっ！違いますよ！？キスです！キスの話です！先生が思ってるようなコトじゃありません！」
「いや、オレ何も言ってねぇだろが！ってか声がでけぇよ！」

先生が必死の形相で「シーッ！」って、イーって形にした口の前に人差し指を立てる。

「あ...ごめんなさい」
「...大坂さぁ、オレのそんな話聞きたいか？聞きたくないでしょ」
「別に先生のそんな話を聞きたい訳じゃないんですけど...他に訊ける人が居ないってゆーか...」
「相葉には訊けないワケね」

ククッと笑った先生が、PCをシャットダウンして私に向き合った。

「で？男子の何が訊きたいの？ホントに訊きたいのはオレのファーストキスの年なんかじゃ無いしょ？あ、でもスクールセクハラとか言われたら困るから際どい質問は無しな？」
「...あの...男子は付き合ったらすぐにでも...その...普通はキスとかしたいものですか？して来ない場合は...何か意味あるんですか？」
「んぁー...際どいっちゃ際どいなー...答えて良いのかな、コレ」
「私が際どいって思ってないから大丈夫です！人生相談です！」

俯いて首の後ろをポリポリと掻いた先生は、フゥって小さく息を吐き出して顔を上げる。

「ま...、人生相談なら乗ってやるか」

うんうん！って勢い良く頷いた私を見て、ブハッて先生が吹き出した。

「教師ってより恋愛の先輩として、な？」

その顔は、いつもの表情とちょっとだけ違った。