コイカゼ・ダイブ 6th【ars M.A】 (ページ16)

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191.ジンジャノ・アト。ページ16

翌日土曜日の12時...の、20分前。

私はもう靴まで履いて、玄関に座って先輩が来るのを待ってた。

お母さんに「こんな寒いとこで待たなくても、部屋で待ってれば良いのに」って笑われたって

ヒンヤリしてる玄関で、じーっと先輩を待った。

握りしめたスマホの液晶に浮かぶ時刻が、『11:56』になった時

ピーポーンと、チャイムが響く。

ドキンと跳ねた胸と一緒に、身体も跳ねて

凄い勢いで玄関を開くと、門扉の向こうでスタジャンにジーンズ姿の相葉先輩がちょっとビックリしたように目を丸くして笑った。

「おはよ！Aちゃん」

最後にもう一回鏡を見て髪型チェックしようとしてたのに、忘れてたことを思い出して

ボディクリームもギリギリにもうちょっと塗り足そうと決めてたのも、一緒に思い出して

何か、もう一回部屋の中に戻りたくなったけど

それよりも先輩の近くに早く行きたくて、駆け足で走り寄ってしまう。

「お...はようございます」

門扉から出ると、先輩が「おはよ」ってまた挨拶してくれて

「おはようございます」って、私もまた挨拶した。

いつもの電車に乗って、途中の駅で降りて違う電車に乗り換えて

先輩が調べたってゆー学業の神様が居る神社を目指す。

到着したそこは、そんなに大きな神社じゃなかったけど、もうお正月もかなり過ぎてるから人もまばらで澄んでる空気が気持ち良い。

手水舎で手を清めて、ハンカチを先輩に貸してあげて

二人で並んで、神様にお願いをした。

どうか櫻井先輩が、全ての力を出せますように。
日頃の努力が、報われますように。
桜が咲きますように。

ペコリと一礼して、チラッと相葉先輩を見るとまだ手を合わせて目を閉じてる。

小さな声でお願い事を言ってるらしく、口元がモゴモゴと動いてて最後に

「神様、お願いします」

声は聴こえなかったけど、先輩の口がそう動いて

一礼した先輩が、こっちを見た。

「お待たせ！何かいっぱいお願いしちゃったんだけど、大丈夫かな？」
「きっと、男の友情に神様も感動しますよ！」
「そっかな！あー...もう、俺も緊張して来たよー...翔ちゃん、今頃頑張ってんだね」
「うん。頑張ってますね、絶対」

手を繋いで、神社を後にする。

駅の方へ歩こうとした私の手を、先輩が引っ張った。

「Aちゃん、あっち行こ！」
「え？」
「あっちにさ、動物園あるんだって！」

ポカンとしてる私に

「デートしよ！」

先輩は、目尻に皺を寄せて笑った。