コイカゼ・ダイブ 6th【ars M.A】 (ページ15)

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190.トントン・サイン。ページ15

クンクン、微かに残る桃のボディクリームを匂ってる相葉先輩の鼻が手首に当たる。

身体が固まっちゃったみたいに、動けなくて

変に肩に力が入っちゃって、ガチガチになる。

「俺も欲しいなぁ、これ。ボディクリームだっけ？」
「...えっ？」
「だって、これがあったらいつでもAちゃんの匂い...あ、何か変態みたいだね！？ごめんごめん！アハハ！」

取り繕うように笑った先輩が、私の手首を掴んだまんま歩き出した。

手首を掴んでる先輩の手は、歩いてる内に掌まで滑り下りてきて指が絡まる。

何度手を繋いでも、その度にドキドキする。

先輩の長い指が、私の手の甲をトントンと叩く。

トントン、に応えるように先輩を見上げると

「ん？」って、私を見下ろす目が優しくて、格好良くて「ううん」って首を振って俯いてしまう。

そしたらまた、トントンってされて

もう一度見上げると、また「ん？」って微笑まれて「ううん」って首を振って

次は私が、真似してトントンって先輩の手の甲を叩いてみた。

「フフッ、何？」
「先輩の真似です」
「えー？俺、そんな事してた？」
「してましたよー」

クスクス笑い合う。

「じゃあ、これ二人のサインにしよっか」
「サイン？」
「母ちゃんが好きな歌の歌詞なんだけどね、バイクのメット5回ぶつけて『アイシテルのサイン』...ってのがあんの」
「あっ...あいっ...！？」

アイシテル！？

「何にしよっかー」
「えっ...あっ...えっと...」

トントン、指を動かして先輩が空を見上げながら歩く。

「内緒のサインだからね」
「...内緒...」

トントン、と動き続けてた指が止まった。

「好き」

ポツリ、空を見上げたまんま先輩が呟く。

そして、トントン、と二回動く指。

「二回ノックで、『好き』...とか、どう？」
「...え...っ！？」
「うわっ！何かキザ！恥ずかしいっ！」

繋いでない方の手で、自分の目元を覆った先輩が「ヤバイ！はずいー！」って照れ臭そうに笑った。

そんな先輩の手をギュウッて握ったら、先輩もギュウッと握り返してくれて

また一緒に、クスクス笑う。

「明日、何時にしよっか？」
「あっ...何時でも大丈夫です！」
「じゃあ、12時！家まで迎えに行くね！」

駅前を歩きながら、明日の約束をする。

先輩はやっぱり「Aちゃんちの駅まで行く」って、先輩んちとは逆方向の電車に一緒に乗ってくれた。

改札の前で、繋いだ手を離す瞬間

トントン

先輩の指が、二回私の甲をノックした。