コイカゼ・ダイブ 6th【ars M.A】 (ページ14)

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189.フワリ・ポツリ。ページ14

「ねぇ、Aちゃんは明日って何か用事ある？」
「明日ですか？」
「うん。土曜日」

帰り道、先輩は寒いのか学ランの下に着たパーカーの袖を引っ張り出して手を隠しながら話す。

その無意識な萌え袖に、キュンキュンする。

「用事、無いですけど...」
「あ、ホント？じゃあちょっと付き合って欲しいトコあって」
「はい！良いですよ！どこですか？」

先輩と出かけられるならどこだって良い。

先輩が誘ってくれるだけで嬉しい。

「明日さ、翔ちゃん試験なの」
「あ...センター」
「うん。でさぁ、気持ちはホント会場まで行って応援したい位なんだけど絶対に迷惑そうな顔されんの目に見えてるしー...」
「フフッ」
「だから、神頼みしに行ってあげようかなーって」

話す先輩の口から、言葉と一緒に白い息がふわふわと浮かび出る。

「さすがに安産のお守りだけでは心配だからさ！」

先輩がアハッ、て笑ったら白い息もフワッと出た。

「今度はね、ちゃんとググった！学業の神様」
「学業の神様ですか！」
「ついでに俺の頭も良くして貰えるかな」

茶色い頭を大きな掌で撫でながら「無理か！」って笑う姿まで格好良いとか、先輩はどこまで『格好良い』の引き出しを持ってるんだろう...なんて本気で思う。

「でもせっかくデートなのにまた神社？って感じだよね」

私と出かけるのを『デート』だって先輩が思ってくれてる事に、思わずガッツポーズしそうになる。

「ううん、行きたいです！櫻井先輩の応援ですね」
「うん。翔ちゃん、めっちゃ頑張ってるからねぇ...絶対に受かって欲しくて」
「仲良しですね」

全然タイプ違うように見えるのに、ホント相葉先輩と櫻井先輩は仲が良いなと思う。

「見てたからね、翔ちゃんの努力...」

視線を足元に落として、先輩がポツリと呟く。

そんな先輩を見てウットリしながら歩いてたら

段差、とも言えないような低い段差に靴の爪先が引っ掛かった。

「あっ！」と思ったのと「こける！」って思ったのが同時で

でも、そのどっちよりも先に私の身体は相葉先輩の腕の中にあった。

「お...っと！危なかったね！」
「...あ...」
「よそ見してた？」
「ごめんなさい...」

ギュっと掴んだ先輩の二の腕は、細いと思ってたのに学ラン越しでも筋肉を感じて

息が出来ない程、ドキドキする。

「あ...Aちゃん」
「はい...」
「やっぱ桃の匂い」

私の手首を顔の前まで持ち上げて鼻に近付けた先輩が「良い匂い」って囁いた。