コイカゼ・ダイブ 6th【ars M.A】 (ページ12)

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187.オレンジノ・ソラ。ページ12

「俺、このベンチで腕相撲したコトあんの」
「え？腕相撲...？」

ベンチに座ると、相葉先輩がフフッて笑った。

「あ！翔ちゃんだ！」

何で腕相撲？って思ってる私をよそに、先輩は駅の方を指差した。

その指の先には、相変わらずマフラーグルグルで口元を隠した櫻井先輩。
そして、隣にはいつか見た彼女。

「センター試験もうすぐなのに、翔ちゃんったら彼女とデートしちゃってぇ」
「でも、彼女さんが単語帳捲ってますよ？」
「あ、ホントだ」
「お勉強してますね」

櫻井先輩は、彼女が出してる問題を解いてるのかたまに上を向いて
彼女の方を見たと思ったら、人差し指を立てて何か言ってる。

それを受けた彼女はニコって笑って、櫻井先輩の頭をポンポンって撫でた。

櫻井先輩の目元が、キュウって細くなる。

口元が隠れてるのに、笑い声が聞こえて来そうな表情。

「...翔ちゃん、デレッデレだね...何だ、ありゃ」
「フフッ、幸せそうですね」
「好きな子と一緒に居たら、勉強も楽しいのかな？」

ねっ！って笑ってこっちを見た先輩に、私も「ねっ！」って言いながらきっと顔は真っ赤になってるような気がする。

駅の中に入って行った二人の姿を見送った時、自分もそろそろ帰らなきゃ夕飯に間に合わないって事に気付いた。

「あ...先輩、そろそろ私...」
「うわ、もうこんな時間になってたんだ！」

さっきお昼ご飯を食べたばっかりのような気がするのに、空はすっかりオレンジ色に染まってて

子供はもう帰りなさい、って言われてる気分になる。

「何か...」

先輩が、そのオレンジ色の空を見上げて呟く。

「Aちゃんと一緒に居たら時間経つの、早いねぇ...」

そう言った横顔から、目が離せなくなる。

今先輩がこっち向いたら、私絶対に酷い顔になってそうなのに

それでも、ずっと見ていたくなる。

先輩の言葉のひとつひとつに、心が「嬉しい」って叫んでるみたい。

「あ！Aちゃんちの駅まで、一緒に電車乗ってくよ！」
「..え？」
「改札出なかったら、お金もかかんないし！ね？」

それって...キセルにならないのかな...ってちょっと不安になったけど

「だけど...先輩が家に帰る時間が遅くなっちゃいますよ」
「その分、Aちゃんと長く一緒に居れるでしょ？」

そんなコト言われたら、さっきの不安は結構どーでも良いかなんて悪いコト思っちゃって

「...良いんですか？」
「うん、一緒に帰ろ！」

また繋がれた手が、あったかい。