コイカゼ・ダイブ 6th【ars M.A】 (ページ11)

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186.ハン・バーガー。ページ11

「ねぇAちゃん、お腹減ったね」
「あ...うん、そうですね」

始業式だったから、お昼をまだ食べてない。

「ハンバーガーでも食べて帰ろうか！」
「はい！」

私達は駅前のハンバーガーショップで、お昼を済ませる事にした。

先輩の前で大きな口を開けるのはまだ恥ずかしいから、出来るだけ小さい口で食べられそうなやつを選ぶ。
千切りキャベツとか入って無くって、バンズも二段とかになってない普通のヤツ。

先輩はパティが二枚入ってる大きなバーガーを、アーンと大きく開けた口で食べてて

口の端っこにやっぱりソース付いちゃってて

「付いてますよ？ここ」

私が自分の口の端をトントンと指差したら、ほっぺたを膨らませてモグモグさせながら「ん？」ってちょっと舌を出して口の周りをペロリと舐めた。

そんなのも、全部格好良くてドキドキして

「取れた？」
「ううん、まだ付いてます」
「えー...取って取って」
「えっ！？」

向かい合わせの席でちょっと身を乗り出して、私に口元を「んー」って出してる先輩に

裏庭で一緒にパンを食べた日の事を思い出す。

あの時は、先輩の唇に触れるなんて出来なくって鏡を渡したけど

今の私は、紙ナプキンを手に持ち自分もちょっと身を乗り出してその唇の端をチョンチョン、と拭く事が出来た。

「フフッ、ありがと」
「...どういたしまして...」

だけど、胸のドキドキはあの日よりずっとずっと大きいかもしれない。

ハンバーガーを食べ終わり、店を出る。

帰る方向が逆だから改札を通ったらすぐにバイバイしなきゃいけなくって

だからどちらともなく立ち止まって、駅前で立ち話をした。

時々、先輩が肩を上げてリュックを担ぎ直す。

綺麗な形の後頭部に掌を差し込んでワシャワシャってする。

時々同じ学校の生徒が私達の横を通り過ぎてく。

三年生が先輩の肩を叩きながら「相葉の彼女？」って訊く。

「うん！」って笑顔で返してる先輩に、泣きそうになった。

「ねぇAちゃん、立ってるのもアレだし座ろうか」
「あ、はい」

先輩が、空いてるベンチに向かって歩き出す。

小走りで追い掛けたら、振り返った先輩が手を繋いでくれた。

こんな人がいっぱいの中で、制服のまんまで男の子と手を繋いで、しかも相手は相葉先輩で...

今まで感じた事の無い気持ちになる。
ちょっと優越感にも似てるような、誇らしい気持ち。

その中に照れ臭さもあって、嬉しいって想いもあって...感情が渋滞しててちょっと苦しい。