コイカゼ・ダイブ 5th【ars M.A】 (ページ10)

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150.ノメナイ・ココア。ページ10

「A、約束は覚えてる？」
「...うん、分かってるよー...」
「外出して良いのは、今日の夜からお正月まで！二日は絶対に家に居るって約束だからね！」

お正月には実家に帰って来てる(って言ってもご近所さんだけど)潤ちゃんが、毎年二日にはうちに挨拶しに来る。

そこには絶対に居なさい、ってゆー約束。

「...うん...分かってるから...」

でも私はそれ所じゃなくって、さっきから震えて来る手をどうしたら良いのか分からない。

大晦日の夜9時45分。

門限も過ぎたこんな時間に出歩く事が、塾に通ってる訳でも無い私にはまず無くて

しかも、迎えに来るのが相葉先輩だって思ったら口の中がカラカラに渇く。

「大丈夫？A」
「...え？」
「顔がさっきからずっと真っ青なんだけど」

お母さんがクスクス笑う。

「...笑い事じゃ無いし...」

先輩が来るのは10時だから、あと15分。

「落ち着く為にココアでも飲んで行きなさい」
「うん...ありがと...」

ソファで寝てしまってるお父さんが起きないように二人でコソコソ喋りながらダイニングに座って、お母さんが淹れてくれたココアを飲む。

だけど、ドキドキし過ぎて上手く飲み込めない。

「あれ、熱かった？氷入れる？」
「ううん...そーゆーワケじゃないんだけど...」

カップの中で揺れるココアの表面を眺めてると

ピンポーン

軽快に鳴ったその音に、ガタンとカップを倒してしまった。

テーブルにココアが広がる。

「えっ！？あっ...！」
「もう、何してんのー」

お母さんがテーブルを拭いて「とりあえず、Aはお出迎えして来なさい。お母さんもすぐに顔出すから」って、笑った。

玄関に用意してた赤いコートを羽織って

ショート丈のエンジニアブーツを履いて

ドアの前で小さく息を吐き出して、ノブに手を掛ける。

ソっとそこを開けると、痛い位に冷たい風が流れ込んで来て思わず目を瞑ってしまったけど

閉じてしまった目を開くと、門扉の向こう側にやっぱり目が潤んでて鼻が真っ赤な先輩が

あったかそうな黒いマフラーをクルクル首元に巻いて、立ってた。

「こんばんは、Aちゃん」
「...はい...こんばんは...」
「迎えに来たよ」
「...はい...」

『迎えに来たよ』なんて、王子様みたいな台詞にドキドキを通り越してドクドクしちゃって

すっごく寒いはずなのに、顔がどんどん熱くなってるのが分かった。