コイカゼ・ダイブ 5th【ars M.A】 (ページ8)

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148.キタカゼ・アセダク。ページ8

バサッ！って音がしそうな位に勢い良く頭を上げた相葉先輩が

「俺...あ、僕、相葉雅紀です！Aちゃんと一緒の高校の三年です！...えっと...」

近所中に聞こえそうな声で自己紹介をした。

「フフッ。相葉くんって言うのね、こんばんは」
「あ！はい、こんばんは！」
「わざわざAを送って来てくれたのね、ありがとう」

お母さんは、私の方を見てちょっと笑った。

「A、おかえりなさい」
「あ...うん。ただいま...」

チラっと先輩を見上げると、ずっとお母さんを見てる。

そして、また小さく息を吐き出してすぐにスゥっと吸い込み口を開いた。

「あのっ...突然で申し訳ないんですけど...」
「ん？何かしら？」
「...年越しのコト...なんですけど...」

年越し...えっ！？

先輩、何を言おうとしてるの！？

「年越し？うん、年越しがどうしたの？」

お母さんが不思議そうに首を傾げた。

「Aちゃんと一緒に、年越しさせて下さい！お願いします！」

またバサッ！って勢いで腰を折って頭を下げた先輩に、心臓が潰れそうになる。

「ちょ..っ...先輩！？」

どうしよう、もうこれどうゆー状況！？

頭を下げてる相葉先輩の背中をポンポン叩いても、先輩は顔を上げない。

「相葉くん？顔を上げてね」
「...はい」

お母さんの言葉でやっと顔を上げた先輩は、あんまり見た事の無い表情をしてて

それだけでも、またキュンとしてしまう。

「相葉くん、黙ってAを連れて行くことも出来たよね？」
「...え...っとー...」
「こうやって母親に言っちゃうと、『ダメ！』って言われるかもしれないのよ？」
「...そう...ですけど、嘘はダメだし隠し事もダメだと思うし...」

ちょっと俯き加減だけど、目だけは絶対お母さんから逸らさない相葉先輩の言葉が

ギュギュって私の心を押す。

「だから、ちゃんとAちゃんのお母さんから『良いよ』って言って貰わなきゃ...ダメだと思ったんです」

お母さんの顔が見れない。

だって、相葉先輩の横顔から目が離せない。

何でだろう...泣きそうになる...。

冷たくって寒い風も、気にならない。

お母さんがどんな答えを出すかにもドキドキするけど

私はそれよりずっと

北風の中、汗だくな相葉先輩にドキドキしてる。