コイカゼ・ダイブ 5th【ars M.A】 (ページ5)

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145.ジュウタク・ガイ。ページ5

「俺、この駅で降りたのって初めてだ！」

相葉先輩が、私んちがある駅に降りてキョロキョロしてる。

「あ！ここにもあるんだね、ドーナツ！」

クリスマスのドーナツ屋さんは、店の外にまでお客さんで溢れてる。

「あのポスターのお兄ちゃん、イケメン」
「あ、ちょっと先輩に似てますね」
「えー？俺の方が格好良くない？なーんて！」

ケラケラと笑う先輩と、この町を歩くなんて

昼間にここを一人で歩いた私が知ったら、ビックリするね。

駅前を抜けると、すぐに住宅街になる。

街灯もそんなに多くなくて、薄暗い道に時々クリスマスイルミネーションを施してる家が出て来て

その度に相葉先輩は「すっげぇ！」って興奮してた。

「こないだニノちゃんと駅前で会ったんだけどさ、あのキラキラ見て『これ電気代いくらかかんの？』って言ってた」
「言いそうですねぇ、フフッ」
「期待を裏切らないよね、ニノちゃん」

近所迷惑にならないように、小さな声でクスクス笑いながら歩く。

相葉先輩のスニーカーが、パコンパコンと靴音を鳴らす。

「ねぇ、Aちゃん」
「はい」
「家、もうすぐ？」
「えっと...後五分位で着きますけど...あ、ごめんなさい！遠かったですよね！？」

そうだよ、私何も言ってなかった！

駅から家までどれくらい掛かるか知らずに歩いてたら「いつ着くの？」って思うよね！？

「えっ！？ううん！そーゆー意味じゃないよ！」
「...え？」
「あのさ...」

立ち止まった先輩が、コートのポケットに手を突っ込んでゴソゴソしてる。

「...これ...」

ちょっと俯き加減な相葉先輩が、私の手を取って何かをグイって押し付けて来た。

「...クリスマス...だからさ」

大きな手が離れた後、私の掌に残ってたのはリボンの掛かった小さな袋。

「...え...先輩、これ...」
「渡すタイミング、分かんなくて。でもこのままAちゃんの家に着いたら渡せないなって思ったから...」

唇をキュって噛んだ先輩に、ちょっと目を逸らされて

胸がギュギュってなる。

「開けても...良いですか？」
「うん。何か恥ずかしいから俺は見なくっても良い？」

そう言って、両手で顔を隠してしまった先輩の前でリボンを解いて袋を開ける。

「あ...可愛い」

出て来たのは、あの日からずっと手首に着けてるシュシュと同じ白黒チェック柄のパスケース。

先輩を見たら、指の隙間からこっそりこっち見てて

年上なのに男子なのに可愛いなんてズルイって、ドキドキした。