コイカゼ・ダイブ 5th【ars M.A】 (ページ33)

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174.オヒメ・サマ。ページ33

身体は不安定だけど、どうやってバランス取れば良いのか分からなくって先輩の肩をギュっと掴んだ。

「Aちゃん！それ、危ない」
「えっ！？」
「もっとちゃんと掴まってて？」
「え...でも...」

ちゃんと、って！？

ちゃんとって言われても、どこをどうすれば良いのか全然分からない。

ドラマとかでお姫様抱っこされてる女の子って、どうしてた？
どうしてたっけ...どうしてたっけ...

「首」
「...首！？」
「うん、両腕を俺の首に引っ掛けてて。多分それが一番危なくないと思うから」
「は...い...」

言われた通りに両腕を先輩の首に伸ばすと、それはまるで首にギュって抱き着いてるような感じになっちゃって

さっきより、顔の距離も近くなって

先輩の顎の下に小さなニキビが出来てるのも、見えて...ドキドキとかそーゆーの通り越しちゃってる。

「よいしょ、っと」

私の身体を支え直した先輩が、歩き出す。

「あのっ...」
「ん？」
「重い...ですよね...」
「ぜーんぜん」

笑う先輩の喉が動くのを感じて、またドキンとする。

時々立ち止まった先輩が、「よいしょ」って太腿で私の身体を押し上げて抱き直す。

絶対に重いのに、絶対にしんどいのに。

だってこんなに寒いのに、先輩の首筋にはツーって汗が流れてる。

思わずその汗を掌で拭ったら、「あ！ダメだって！汗、汚いから！放置しといて、放置！」って先輩はブンブン首を振った。

「...汚くないです...」
「ん？何？何か言った？」
「あ...ううん！何も言ってません...」

ダウンを着てる彼の身体は、ホカホカあったかくって

サラサラの髪が風で揺れる度に、いつもの香水とは違うシャンプーの匂いがして

誘われるように少しだけ、強張ってた身体の力を抜いて先輩の胸に寄り添ってみた。

「あっ...！ちょ...Aちゃん」
「えっ？」
「いや...ううん」
「...え？」

先輩がモゴモゴと何かを口籠る。

「バレちゃった...？」
「...何がですか？」
「引っ付いたら、バレちゃうよね！？」
「え？え？」

立ち止まって、ちょっとだけ唇を噛んだ彼がこっちを見た。

前髪が触れる程の距離に、胸が詰まりそうになる。
息が出来ない。

「俺のシンゾーがめっちゃドキドキしてんの、バレちゃったよね」

照れ臭そうにキュっと目を閉じた先輩が「もうホントはさっきからヤッバイんだって！ドキドキし過ぎて吐きそう！」って

「あ、『吐きそう』はダメだ」ってヘヘッて笑って、また歩き出した。