コイカゼ・ダイブ 5th【ars M.A】 (ページ30)

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171.ゼンザイ・ヒトクチ。ページ30

人でいっぱいの神社を離れて、ドーナツ屋さん行きたいねぇって話しながら歩いてると

先輩があるお店を見て立ち止まった。

「Aちゃん！甘味屋さんだ！」
「え？あ、ホントですね」
「アンコとか、平気？」
「うん。和菓子も好きです！」

私達は15分程度の待ち時間が出来てるそのお店に並ぶ事にした。

通された店内は当然だけど和風で、ほんのりお茶の匂いが漂ってる。

私は抹茶パフェ、先輩はおぜんざいを頼んでお冷を飲みながら向かい合わせで一息ついた。

「ねぇ、Aちゃん」
「はい」
「おみくじって、年に一回しか引いちゃダメって事は無いんだよ」

先輩が丸い目を細める。

「って、まぁ翔ちゃんに教えて貰ったんだけどね？リベンジしても良いんだって！」
「フフッ、リベンジですか？」
「また、一緒に引く？んー...そうだな、春頃とかに」
「春...」

春も、私と一緒に居てくれるってコト？
...先輩が卒業しても、一緒に居られるって...コト？

「...大丈夫です！」
「ん？」
「リベンジはしなくっても、大丈夫です。だって、凶って悪くないんだなって教えて貰ったから」
「ハハッ、うん。そうだね！凶は悪くないよ！オソロイだから余計に良いよね！」

春の約束をしてくれる先輩と一緒に居られるんだから、それで充分。

大嫌いだったおみくじを、怖くて仕方無かった『凶』を

簡単に好きにさせてくれた先輩と一緒に居られるなんて、私絶対に世界一幸せだと思うんだ。

和服の店員さんが運んで来た、パフェとおぜんざい。

お匙で白玉を掬って、やっぱりちょっとだけ舌でお迎えに行ってから口に入れた先輩が「んまー」って目を閉じた。

私もパフェの抹茶アイスを食べる。

「やっぱ、着物にはドーナツよりこっちだね」
「え？」
「せっかくAちゃん綺麗にしてるから、いつも通りはなぁって思ったの」

高級な和食屋さんなんかは無理だけどね！って笑った先輩に、キュンとは違う感じで胸が縮んだ。

「ねぇ、ぜんざい美味しいよ！ほら」

身を乗り出した先輩が、お匙に白玉一個乗せて私の目の前に差し出して来る。

「Aちゃん、あーんして？」
「えっ！？」
「あーん」
「...あー...」
「ハハッ！もうちょっと開けてくんなきゃ入らないよ」

『彼氏』になった先輩に見られるのが何だか恥ずかしくって、大きく口を開けなかった私に

先輩は笑いながら、おぜんざいをお裾分けしてくれた。

一瞬近付いた顔に、口だけじゃ無くて胸まで甘くなった気がした。