コイカゼ・ダイブ 5th【ars M.A】 (ページ20)

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160.イッセキ・ニチョウ。ページ20

「行こうか」

うん、って頷く私の手に絡められる、先輩の長い指。

少し指の間が窮屈に感じるその繋いだ手を、目の高さまで持ち上げて

「恋人繋ぎは、ちゃんと恋人になってからって決めてたの」

そう言った先輩は、ちょっと恥ずかしそうに俯いて「帰ろう帰ろう！」って私を引っ張って土手を下りて行く。

『恋人』って響きが、嘘みたいで

でも嘘じゃなくって

自然と頬が緩んで来るのを、どうやったら止められるのか分からなくって繋いで無い方の手で口元を隠してみた。

「あの場所ね...」

駅に向かって少し人も増えて来た道で、先輩が話し始める。

「翔ちゃんに教えて貰ったって言ったでしょ？」
「あ...はい」
「でも説明聞いてもイマイチよく分かんなくって。俺、この辺の事あんま知らないし」

あっちの遊園地には行くけどこっち側来ないしさ、ってちょっと辺りを見回す。

「だから、一回連れて来て貰ったの。翔ちゃんに」
「櫻井先輩に、ですか？」
「うん。あのー...下見...的な...？」
「下見...」

ほっぺたをポリポリと掻いて「だって、迷ったら格好悪いなって思って」って言う先輩にキュンとする。

「さっき言ってた『昼間は来た』っての翔ちゃんとだったの」
「あ...」
「何かさ、他の女の子と来たって思われちゃったかな！？ってそれがずっと気になっちゃって」

...思いました、ごめんなさい。

「下見に来たってのもダサイから黙ってようと思ったんだけど、誤解される方が嫌だなと思ったから...」

ダサくなんて無い。

私の為に下見までしてくれてたなんて嬉しくって、嬉し過ぎちゃって、トモちゃんがここに居たら絶対一緒に叫んでる。

「Aちゃん、寒くない？」
「あ...ちょっとだけ...でも、先輩のマフラー借りてるし大丈夫です！」
「じゃあ、こっちも貸したげる」
「え？」

先輩は恋人繋ぎの手を、そのまま自分のコートのポケットに入れて

「これなら俺の手もあったかくて一石二鳥」

ニッコリ笑った。

先輩のポケットの中には、カイロが入ってて

それはもうスッカリ暖かく無くなってたけど、繋いだ手は『手汗大丈夫かな！？』って気になる程にポカポカしてる。

「あ、俺の手汗が気になったら言ってね」
「えっ！？私こそです！」

同じことを考えてた事にビックリして変な返しをしてしまった私に先輩は大笑いして

「俺、緊張したらちょー汗かくんだよね」って、繋いだ手をポケットの中でギュギュって握ってくれた。