コイカゼ・ダイブ 5th【ars M.A】 (ページ19)

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159.サン・シュウ。ページ19

お父さんやお爺ちゃんには、抱き着いた事あった。

そうだ、小さな頃は潤ちゃんにも抱き着いてた。

だけど、そのどんな時とも違う。

ずっとずっと、こうやって抱き合っていたいな...なんて思ってしまうのは、イケナイコトなのかな...。

ずっとずっと、相葉先輩にギュウってしてて欲しいし私もギュウってしていたい。

「あ...Aちゃん」
「えっ！？」
「え？」
「あっ...何でも無いです...」

考えてた事、バレちゃったのかと思った...。

「時間、大丈夫かな」
「時間...」
「出来るだけ早く帰ろうって、お母さんの前で約束したでしょ？」
「あ...そうですね...」

腕の力が緩められて、先輩の両手が背中から肩に移った。

私の腕も背中から、先輩の腰に滑り落ちる。

「帰ろうか、ね！」
「...はい」
「帰りたくないけどさ」
「えっ！？」
「早く大人になりたいねー！」

ケラケラ笑った先輩が立ち上がってお尻をパンパンと払ったと思ったら、私に「はい」って手を差し伸べてくれる。

そう言えば、前にもあった。
裏庭で、差し出された先輩の右手。

あの時と同じように、今また差し出された右手を掴むとグイっと引っ張って立ち上がらせてくれる。

あの日と違うのは

そのまま、私の身体は先輩の腕の中にまた抱き締められたってコト。

「もうちょっとだけ...」
「......」
「秒針が一周する間だけ...」

そう言って、きっと先輩は自分の時計を見てるんだなって感じでモゾモゾと腕を動かした。

顔に吹きかかる風は、痛い位に冷たいのにそれが気持ち良いって感じる程に顔が熱い。

「...もう一周しちゃった...早いなぁ...」

こんなにあっとゆー間に終わる60秒を、私はやっぱり知らなかったし

「やっぱ、二周にしよっかな」

笑いながら言う先輩は、何だか可愛い。

「...三周にして下さい...」

そんな事が言えたのは、きっと先輩の顔が見えてないから。

先輩の喉が、コクンと音を立てた。

大きな掌が、私の後頭部を包み込んだ。

ちょっと苦しいな...って位、強く抱き締められた。

トクトクトクって早打ちな私の心臓の音が、聴こえる。

「三周...終わっちゃった」

ソッ、と離される身体。

「俺、三分ってもっと長いと思ってた」

ちょっと唇を尖らせて話す先輩が、「だってカップ麺作ってる時、待ちくたびれない？」って笑う。

そんなコト言われたら、これからカップ麺作る時に絶対今日の事を思い出しちゃうよ。