コイカゼ・ダイブ 5th【ars M.A】 (ページ18)

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158.アマイ・イタミ。ページ18

両手をどうしたら良いのか分からなくって、自分の胸の前でギュっと握り拳を作った。

小さく丸まるようになってる私の身体を、相葉先輩が包み込んでくれる。

先輩のサラサラの髪の毛が、耳やほっぺに当たってくすぐったいのにドキドキして、何だか心地良いような気もする。

「...はぁ...」

溜息のように吐き出された先輩の息遣いに、何だか不安になって

何か言いたいのに、何も言えない。

「...めっちゃドキドキすんね」
「え...？」
「俺の心臓、ヤバくない？脈がすっげぇ早いんだけど、走った後みたい！」

ほら、って先輩が握り締めてた私の拳を手に取って

「分かる？」

小さな声で囁きながら、自分の胸に押し当てた。

コート越し、少しだけ伝わって来るその鼓動が先輩のドキドキなのか、私のドキドキなのか正直よく分からない。

「...ホントに良いの？」
「...え...？」
「俺で、良いの？」

こんな近くで見た事の無かった、黒目がちな丸い目が

柔らかく、でもちょっと不安げに私の目を覗き込む。

「良い、って言ったら俺が今からAちゃんの彼氏になっちゃうけど」

そんな夢みたいな話を「嫌だ」なんて言う女の子が居るなら会ってみたい。

大袈裟じゃ無くそう思ってしまう位に、先輩が格好良くてまた泣きそうになる。

「...はい。...良い...です」

キュって弧を描く、大好きなふっくらした唇。

「...ぱいが...良いです...」
「...ん？」
「...先輩が、良いです...」

その唇が、驚いたように小さく開いた。

「Aちゃん...」
「......」
「フフッ、めっちゃ嬉しい！」

また、ギュウって抱き締められて

先輩の肩にギュウって口元が引っ付いて

「ありがと。仲良くしようね」

その声が、胸に甘い痛みを連れて来る。

嬉しいのに、すっごく嬉しいのに胸がシクシク痛くなるって事も初めて知った。

でもそれは痛いのに甘くて、やっぱりすっごく嬉しいなんて不思議な気持ちがあるのも初めて知った。

「本当に...私なんかで良いんですか...？」

ポツリ、零れ出た言葉。

先輩は、私の背中をポンっと叩いて「コラ！」って笑う。

「私なんか、って言っちゃ駄目」
「え...？」
「俺だってAちゃん『が』良いの！」

胸の奥が苦しい。

でもこの苦しさも、やっぱり甘いんだ。
甘くて甘くて、眩暈がするんだ。

私は自分の胸の前に揃えてた両手を、ソッと先輩の背中に回して

初めて、男の子を抱き締めた。