コイカゼ・ダイブ 5th【ars M.A】 (ページ14)

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154.モクテキ・チ。ページ14

その駅には、家族で何回かとトモちゃんと一回降りた事があった。

この近くに大きな遊園地がある。

きっと周りに居る人達は皆、そこで行われるカウントダウンのイベントに行くんだろうなって感じで

先輩が私を連れてってくれるのも、きっとその遊園地なんだろうって電車を降りた時に気付いた。

「こっちだよー」
「え？そっちじゃないですよ？」
「ううん、こっちで大丈夫！」

なのに、先輩は遊園地に向かう人波とは逆方向に私の手を引いたまま歩き出す。

「逆流、ムズイねー」

人の波に逆らって歩くのって思ってたより結構大変で、先輩は「すみません、すみません」って対向の人達に謝りながら進む。

「はぐれないでね、Aちゃん」
「はい、大丈夫です！」

凄い人だから、こんな所ではぐれたら最後。
もう先輩と合流できない気がして、必死でその背中から目を離さないように歩いてた。

「俺の手、絶対に離しちゃ駄目だよ？ギュってしときなよ？」

ちょっと早足で歩いてたら、突然振り返った先輩が

それだけを言って、また前を向いた。

絶対に離しちゃ駄目って言われた、手。

その手を、私がギュってする前に先輩がギュウって握った。

ちょっと痛い位に握られた手に、心臓までギュウって握り締められたように苦しくなる。

だんだん遊園地に行く波は無くなって

周りに人が少なくなって

もうはぐれる事は絶対に無いと思うんだけど

繋がれた手を離したくなくって

でも離さなきゃ不自然かなって

いっぱい考えてたら、私を引っ張るように少し前を歩いてたはずの先輩がいつの間にか隣に並んで歩いてた。

「もうすぐだよ、目的地！」
「ここ...ですか？」
「うん、もうちょっと先なんだけどね」

そこは、さっきまでの賑やかさが消えた住宅街。

「あそこ！」

先輩が指差したのは、小高くなった河川敷。

「去年ね、翔ちゃんに教えて貰ったの」
「櫻井先輩ですか？」
「うん。翔ちゃんが去年ね、彼女と来たんだって」

土手を上がると、対岸に遊園地の明かりが見えた。

「うわ...綺麗！」
「ホントだ！俺も夜に来たのは初めて！」
「お昼には来たコトあるんですか？」
「あ、うん...まぁ...」

少し言い淀んだ先輩に「他の女の子となんだろうな...」って思うと、今度は違った胸の痛みに襲われる。

けど、北風に茶色い髪を靡かせてキラキラ輝く遊園地を眺めてる先輩の横顔が

凄く綺麗で

今一緒に居れるだけでも凄いんだ...って、素直にそう思った。