コイカゼ・ダイブ 5th【ars M.A】 (ページ11)

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151.ウレシイ・キモチ。ページ11

約束の時間まで、まだ5分はあったから

あとまだ5分は心の準備をしてられるって思ってた。

「寒いねー、カイロある？」
「あ、え...えっと...」
「俺、何個か持って来てるしあげるね！」

玄関先で突っ立ったまんま、門扉にすら行けない私の後ろから「こんばんは、相葉くん」って声がした。

振り返ると、お母さんが立ってて

先輩は「こんばんは！」って、ニッコリ笑って頭を下げた。

「何してるの、A」
「え...」

お母さんに背中を押されて、相葉先輩の前まで行く。

門扉を開きながら、お母さんが「じゃあ、Aをよろしくね」と言うと

相葉先輩は「はい、分かりました！」って大きな口で笑ったから、その口からいっぱい白い息が溢れ出た。

「帰りは真夜中か朝方になるんだろうから、Aを送ってくれたら相葉くんはそのまま帰って良いからね？私も寝てるだろうし」
「え...でも」
「また日を改めて遊びに来てくれたら良いから」

お母さんがサラっと『遊びに来て』なんて言った事が、私には大事件なのに

「はい！じゃあ、帰りに連絡だけでもします！」

って、相葉先輩は頷きながらそう言って

「あんまり遅くならないようにしようね。Aちゃん」

私を見て、微笑む。

「...はい...」

門扉を出て先輩の隣に立つだけで、嬉しくて

背の高い先輩を見上げるのが、嬉しくて

私服の先輩にまた会えたのが、嬉しくて

私、これ以上の『嬉しい』なんて無いんじゃないのかなって位、いっぱい『嬉しい』って思った。

「気を付けていってらっしゃい！人いっぱいだろうから、二人はぐれないようにね？」
「はい！任せて下さい！」
「相葉くん、頼んだよー？じゃあねー、私はジャニーズのカウントダウンでも観ようかなー」

ヒラヒラと手を振ったお母さんが、家の中に入って行った。

シン、と周りが静まる。

私の心臓の音、聴こえてしまいそうで緊張する。

「...じゃ、行こっか」

さっきまでより、小さく出された声は

さっきまでより、ちょっとだけ低くて

耳の奥まで、キュンとなる。

クリスマスと違って、イルミネーションを施してる家も無くて

前、一緒に歩いた時よりも暗い道。

「はい、これ」
「え？」
「カイロ！」

暗い道の途中で、私の目の前に出されたカイロ。

「あ、ありがとうございます！」
「さっむいねー、でも晴れて良かったね！」
「そうですね」

見上げた晴れた夜空には、薄い薄い雲が流れてた。