空想男子アディクション【ars】 (ページ19)

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「翔さん、何してるんですか？」

部屋中に段ボールの山。

引っ越しがもう、来週末に迫ってる。

たくさんたくさん家を見て、私達が気に入った家は今住んでる町からそんなに遠くない町にある分譲マンション。

「一生一緒に暮らすんだし」が、実現するんだ...って思ったら、翔さんが契約書に印鑑を押してる隣で泣きそうになって

慌ててトイレに駆け込んだ。

翔さんは「食い過ぎー？」ってからかうように笑ったけど

私は、今まで一番幸せだと思ってた『美味し物をお腹いっぱい食べる』って事よりも幸せな状況に遭遇してるんだよ！って気持ちを込めて翔さんの背中をパコンと叩いた。

そんな新居に、もう来週には引っ越してるだなんてまだちょっと実感無い。

しかもお互い仕事してるからなかなか荷造りが出来ない。
その上、色んな場面でとってもシッカリしてるのに翔さんはこーゆー事に関しては何故かあんまり集中力が無い。

加えて、ちょっと片付けが苦手な人。

すぐに荷造りが脱線してる。

「あ、ちょっと先行きを考えてた」
「先行き？」
「未来設計って言うの？」

さっきまで段ボールに本を詰め込んでたはずの翔さんが胡坐をかいて、その段ボールを机代わりにして何か書いてる。

隣に座って手元を覗き込むとどうやら要らない書類を裏返して、そこに手書きの年表のような物。

「これからの未来設計、してみてた」

何故今それを？って思ったけど、私も荷造りに飽きてたから翔さんにピトっと引っ付いて話を聞く。

「結婚、新居購入、引っ越し、でここからが未来ね」
「引っ越しもまだ未来ですよ？」
「ハハッ、結構細かいね」

とりあえず引っ越しは決まってる事だから、って言うとその続きを書き込んで行く。

「寿命はきっと、医学も発達するだろうから今より10歳は延びてると思うんだ」
「10歳？」
「うん。だから、俺は90歳かなー？あ、知ってる？既婚男性は独身男性よりも寿命長いんだってさ」
「へー！何でですか？」
「幸せだからじゃない？」

ニッコリ笑って、私の頭にコツンと頭を当てる。

私がそんな翔さんを視線だけで見上げると、彼が顔をこっちに向けて

そのまま、軽い口付け。

「Aちゃんは96歳まで生きるね」
「...翔さん、私を置いて逝かないで下さい...」

想像しただけで悲しくなるから。

「じゃ、毒入りスープで一緒に逝くか」

昔流行った歌の歌詞を朗らかに言う貴方が好き過ぎて、今すぐ死んでしまいそうです。