空想男子アディクション【ars】 (ページ11)

今日:8 hit、昨日:16 hit、合計:1,669,886 hit

４ページ11

ピーンポーン、とチャイムが響く。

「...Aちゃん...？」

夜だからか、雅紀くんが小さな声で私を呼ぶ。

安いアパートの薄いドアだから彼の声はちゃんと聴こえて、何なら私の心臓がドキドキしてる音だって聴こえるんじゃないかって心配になる。

「雅紀くん、どうして...」

ドア越しに言うと、雅紀くんは「Aちゃん！」ってちょっと大きな声を出した。

「Aちゃん出てって...どうしようって思ったんだけど、やっぱ追い掛けなきゃって...」
「......」
「俺、きっといっぱい傷付けちゃってたよね...。Aちゃん、俺がどんな奴だったか知ってるんだから不安にさせちゃ駄目なのに...」
「......」
「ごめんね、ホントごめん。不安にさせて、ごめん」

ドアに手を当てる。

涙が、こみ上げて来る。

だけど勝手にヤキモチ妬いて、勝手に不安になって、勝手に疑って悲しくなって、勝手に泣いてる姿なんて見せたくない。

「雅紀くん...」
「うん？」
「私、傷付いてなんか無いよ？」
「...Aちゃん...」
「大丈夫だよ」

大丈夫。

自分にも言い聞かせる。

「私も、何かやなコト言っちゃってごめんね...」
「ううん、そんなの...やな事なんかじゃ無いよ。俺が悪いんだから」
「雅紀くん...」

彼は、きっと誰よりも優しい人。
嘘のつけない、正直で素直な人。

私はそれを、ちゃんと知ってたはずなのに。

「明日の朝、雅紀くんち行くね」
「...うん、待ってる」
「うん...」
「俺、ずっと待ってるね。じゃあ...、おやすみ」
「おやすみなさい」

彼の「おやすみ」を聴いたら、何だか安心した。

そりゃやっぱ気になる事はあるけど、見えてるモノや聞こえるモノだけを信じてれば良いのかな...。

そんな事を考えながら、私は眠りに就いた。

・

翌朝、約束通り雅紀くんの家に行く為に準備して玄関を開けた私の目に飛び込んで来たのは

ドアの横で、座り込んで眠ってる雅紀くんの姿だった。

長い脚であぐらを組んで、その上に置かれた手にはスマホが握られてる。

俯いて寝息を立ててる彼の目は前髪で見えないけど、少しだけ開いた口元が見えた。

肩が、静かに上下する。

「...もう、何してるの...」

近所の人に見られたらどうするの？
怪し過ぎて通報されちゃうかもしれないよ？
ストーカーだ！なんて言われちゃうかもしれないよ？

ホント、オバカさんなんだから。

思わず、小さく笑って

雅紀くんの前に、私もしゃがんで彼の顔を覗き込んだ。