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コウ side
「ん?コウ、電話」
夕方。いつも通りみんなの夕食を作っていると、本を読んでいたリョウが俺にスマホを向けてきた。俺は一度タオルで濡れた手を拭いてから、キッチンを出てリビングに向かう。リョウからスマホを受け取って相手のAを見ずに電話に出た。
「もしもし?」
「あ、兄さん?Aだよ」
「Aか。久しぶりだな。どうかしたか?」
電話相手は実の妹であるAからだった。凛としていて涼やかなこの声を聞いたのはいつぶりだろう。長く連絡もとらず、会うこともせずだった。妹の声がひどく懐かしく感じる。
「特に用はないよ。なんとなく声を聞きたくなっただけ。忙しいならもう切っていいからね?兄さんの邪魔したくないし」
Aは優しくそう俺に語りかける。Aは昔、心が不安定だったり寂しかったりする時は必ず俺の部屋に来て相談していた。彼奴はいつでもみんなの理想像であろうとする。だから弱音は俺の前でしか絶対吐かない。それは兄貴である俺の特権なので、嬉しく思う気持ちはある。
そのAが俺に電話をしてきたのだ。今は少し心が不安定なんだろう。それを察せば、易々切る気は起きなかった。久しぶりにAと話もしたかったのもあるが。
「いや、大丈夫だ。好きなだけ話し相手になろう」
「本当に?無理してない?」
「ああ」
俺が力強く返事をすると、Aは嬉しそうに笑って学校のことや友達のことなどを話し始めた。普段より明るい声色から読み取れる、今の日常の充実さ。きっと楽しい毎日を送ることができているのだと考えると、嬉しくてたまらない。
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作者名:ナツ | 作成日時:2022年10月21日 0時