実行 ページ5
忍は、感情を捨てなければならない。
情など、取るに足らないものだと思わなければならない。
それが、忍びでいることの、大切なことの一つだ。
そして、捨てたことのある情だから、湧けばすぐにわかってしまう。
恩を抱いてしまえば、尊敬の念を抱いてしまえば、どうしようもなくお人好しで、海のように深く広い心で、抜け目のない思考力を持っていたあの人に、まだ未練が残ってしまっているのだろう。
私は忍だ、確かにあの時、忍だったのだ。
言い訳に過ぎないだろうか、結局は主を見捨て、自分だけ生き残ってしまったのだから。
守り抜いて、共に散るのが、私の役目ではなかったのか
布の端を固く結んだ。
半分片道だけのような心で全員が寝静まったこの夜に、塀の屋根へと登った。
月明かりが異様に明るく感じた。
仇を取ろうと決めたこんな日にも、月すらも味方に付けれずとは、なんて考えて息をひとつ吐けば、土を踏む音がする
「兄さん」
弟の伊作だった、寝巻きではなく、いつもの深緑の忍装束に身を包んでいた。
『…どうした?眠れないのか?』
優しい声色で返事をすれば、伊作は少し、眉をひそめた
「兄さんはいつもそうやって優しい、だけど僕にはいつも誤魔化すんだ」
『伊作…』
「僕だって立派な忍になるために強くなってきたんだ、兄さんがここ最近ずっと悩んでいたことも、何かを調べていたことも、全部知ってるよ」
『……お友達もかい?』
「え?」
先程まで真剣な顔だった伊作が気の抜けた声を出す。
指さされた方向見れば同じ深緑色があった。
「一人で行くより安全です」
留三郎が伊作の横に並ぶ
『忍とは、一人で逝くものだよ』
「兄さんっ!」
引く気はないのだろう、引いてほしい。
そんな考えが脳内で混ざっていく。
『……無理に動くんじゃないぞ』
それだけ言って塀の外側へと飛び降りて走り出す。
さすがと言いたいほどだ、走っている足音など、何一つ聞こえなかった。
月が明けてしまう前に
情が、湧いてしまう前に。
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またちょぉ〜っと待っててねぇ
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名無し - お兄ちゃんは伝説の剣豪!から読ませていただいている者ですが、貴方の小説が大好きです!!貴方の小説が好きすぎて何回も読んでしまいます。続きをとても楽しみにしているので、よろしければまた書いてはいただけないでしょうか?でもご無理はなさらないでください。 (12月29日 21時) (レス) id: 728f0713e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:レレイト | 作成日時:2023年1月23日 16時