恋する覚悟はできていた

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***



人間じゃなかった。
人間の姿をしていたけど、さっきのあの人は
人間じゃない。
だって。だって、人間は。


"人を食べる生き物じゃないんだもの。"


***


歩いてきたこの長い廊下を、私はできる限りの
俊足力で走り抜けていた。

校舎と体育館を繋ぐ外廊下に出た時、後ろにいる女がどれくらい詰めているか気になった私は外に出た瞬間に後ろを振り向いた。

女の足は遅く、人間の足の速さには追いつかないらしく廊下のちょうど真ん中辺りを走っていた。


『危なかった………』


嫌な汗がおでこの辺りをつうっと流れる。

呼吸を整える為に息を吐き出すと、女がここを通ってあの親子の方へ向かわせない為に校舎の扉を閉め、傍にあった木の棒で完全に扉を開けられないように閉じ込めた。





完全にこの時の私は油断しきっていた。
あの女を閉じ込めれば、
一先ず安心だと思い込んでいたのだ。



人間は目先のものに追われると途端に回りの物の観察が鈍くなる。ましてや得体のしれない生物が自分を追いかけてくるとなると、余計に周りが見えなくなる。




体育館に戻ろうと身体を方向転換させた途端、何かが私の腕を掴んで、私の身体は思わず後ろに倒れ込んだ。





勢いと衝撃で身体をコンクリートの床に押し付けられ、余りの痛さに顔が歪む。


痛い、と言おうとしたところで目の前の"それ"が先程の女とは比べ物にならない大きな声で唸り声を上げた。

｢うぅ゛うぅ゛うう゛ぉっ、ぅぐっ｣

しーっ、しーっと"それ"が威嚇のようなものをすれば、口の中から涎のようなものがたらりと私の顔に零れ落ちる。

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