春の3日目 ページ5
1限目は学活で、転校生の彼女に学校を案内してあげよう、というものだった。
僕は未だ先程のショックが抜けておらず、茫然自失と黒板を眺めている。先生が白墨を手に《自習》と書くと、生徒達は騒げると思ったらしく、小さくガッツポーズを取った。
学校を案内する筈なのに自習とは、と思ったがどうやら違うらしい。大人数で行っても目立つし他のクラスは授業中だ。三人一組で、が先生の言い分だった。
手を差し込んでいた本を開いて、文字列を追う。
僕の席は丁度、一番後列の窓際だった。
先生が教卓に座って読書を始める。
Aの元へ沢山の視線が集まった。彼女は誰と行くのか。皆の興味は専らそれと、僕だ。Aと親しげに話していた僕が選出されるのか否か、骨董商のように値踏みしている。
「八雲君っ」
彼女が動いた。
嗚呼、全く、僕の描いた通りに物事が進んでいく。恨むぞ、運命。
「一緒に学校回ってくれない?」
「なんで僕なの」と僕は無愛想に零した。
「面白そうだからだよ!」
眩しいくらいの笑顔で云う彼女は、僕の手を取った。モテるんだろうな、とぼんやり思う。
三人一組じゃ一人足りないねー、なんて云うAに僕は提案した。
「一人、僕の知り合いを連れて行ってもいいかな」
「勿論!」
僕は本を机の中に仕舞い、迷わず彼の元へ向かった。お人好しな彼の元へ。
彼の名前を呼ぶと、真面目に勉強していたらしく手を止めて、僕たちを見る。
「一緒に行ってくれない? 敦」
「あ……うん、いいよ!」
こいつも眩しいくらいの笑顔を浮かべる。
僕は人間というものが嫌いなので、判らない。
どうしたらそんなに上手く笑えるだろうか。
そして、僕たちは教室を出た。
「此処が僕たちの教室で、此処は北舎の三階。他のクラスは四階にあるよ。二年三年生の教室は南舎の三階から五階までで」
敦が懇切丁寧に説明を行っている中、僕は、教室を出た途端聴こえる声たちにうんざりしていた。
怪異たちは僕が教室を出れば話し掛けていいと思っている。
「……八雲君?」
Aが僕の顔を覗き込んだ。
反射的に顔を逸らす。
歩を進め階段を降り乍ら、僕は苦し紛れに説明した。
「図書室が北舎の二階。保健室は昇降口の直ぐ横。職員室が南舎二階で音楽室は北舎四階」
Aはうんうん、とか判った、とか相槌を打ってくれて喋り易い。
僕と敦がぺらぺらと交互に説明を終えた処で、丁度よく鐘が鳴った。
一限目は合同体育だ。
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作者名:顎&ゴリラ x他1人 | 作成日時:2017年4月13日 18時