片想い13 ページ14
「マネージャー?」
「う、うん! 募集してないみたいだけど……。
その、今日の練習の風景を見て少しでも
役に立ちたいなって思ったの」
視線に刃に突き刺されること一時間。
休憩時間になったようで、
ファンクラブのみんなも各々の
推しメンに散らばり乾くんに話す隙ができた。
勿論乾くんが対象から外れているという訳ではない。
彼は忍術的な心得があるらしく
慣れた様子で目立たない茂みでノートを
とっていたところを話しかけたのである。
謎の緊張感を紛らわすため、三百六十度辺りを見回す。
……あ、手塚くんにも女子の行列ができてるなぁ。
チクリと痛むのをごまかすように、
少し食い気味に隣にいる彼女に話を振る。
「ね、ねぇ、葵ちゃん!?」
しかし、葵ちゃんはどうでも良さげに髪をかいて。
ドーナツ状態になった靴下をあげながら呟いた。
「へ? 別に私は無理ならーー」
「あ、葵ちゃん……」
わかりやすく眉を下げる。
と、汗をダラダラ流し急に大声を張る彼女。
「じゃ、じゃなくて!!
うん、全国に通ずる実力を持っているであろう
君たちの力に少しでもなりたいって私たちは
健気に思っているんだよ、乾」
ほぼ強制的にではあるが、葵ちゃんにも説得に応じてもえたようだ。
実に心強い。
しかし壁は決して低いことはなく、
乾くんは鉛筆を走らせ続けてやっと私たちに顔を向けた。
「……知っているのなら話は早い、うちはマネージャーを募集していないんだ」
「そこをなんとかしてって頼みにきているだ、私とAは!
そりゃあ、今までマネージャー希望の生徒はたくさんいただろうさ、
その子たちよりはるかに勝る逸材なのかと聞かれれば
そうじゃないさ。
あいにく不器用がウリなんでね……。
でも、このやる気を受け取ってほしい」
長ゼリフを言い終え、長く深呼吸する葵ちゃん。
メガネをカチッと上げる乾くん。
沈黙が、流れた。
髪を遊ばせるように吹いた風さえも
無音としてしまう時間。
唾を飲むこともできずに二人の様子を交互に見つめる。
と____
「あぁ、気持ちは受け取るよ」
「へ? じゃ、じゃあ……」
「……が、不採用だ」
ズテーン!!
コントもどきな効果音が周囲に響いた。
それと同時に集合の合図のホイッスルの音も聞こえ、
乾くんは無表情に背中を向けた。
む、難しい!!
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