特等席 ページ26
✳︎
彼女は歌うのが好きだ。
自転車のサドルは、俺の特等席だった。
「ちゃんとスカート踏んだ？」
『踏んだよ!私の強烈なヒップドロップで身動きも取れない模様ー』
「ん」
荷台にまたがった彼女を振り向いて確認する。
ぐ、と力を込めてペダルを踏めば、自転車はふらふらと揺れて身体の重心がぐらつく。
『るかちゃんさ、毎回それ確認するよね』
「…そんな短くしてるから」
『短い方が可愛いでしょ？』
「捲れたらどうすんだ」
運転中でもしていた居眠りは、後ろに彼女を乗せていると思えば自然としなくなった。
『中に見せパン履いてるから大丈夫。ほら』
「ほらじゃねー捲んな…!」
『うわっあぶなっ!!』
ぐわんぐわんと揺れる自転車。
『危険運転……』
「誰のせいだ、どあほう…」
自転車に乗る時は必需品だったミュージックプレイヤーとイヤホンは、彼女を後ろに乗せるようになってから必要無くなった。
『とばせとばせぇー!』
「…」
『きゃー!!!あはは、飛ばし過ぎ!!風強ー!』
ミュージックプレイヤーが無くても、ここは特等席だから。
信号の無い、坂道に繋がる一本道。
秋になってもう肌寒い風を切りながら、今日も彼女の弾んだ声が背中から聞こえる。
『盗んだバイクで走りだすー』
「盗んでねぇしバイクでもねー」
『いいんだよ!盗んだバイクで走り出したいお年頃でしょ？!』
「尾崎か」
洋楽ばっかり聞いていたけど、彼女がよく歌う歌はいつの間にか覚えていた。
彼女の笑い声が風に乗って爽やかに聞こえる。
背中から腹に回された細い腕が、楽しそうに弾む。
彼女は歌うのが好きだ。
『この長い長い下り坂を〜』
「…」
特別上手いわけではないし、間奏で勝手なアドリブを入れたりする。
『君を自転車の後ろに乗せて〜』
俺は歌うのは別に好きじゃないのに、私に続いて歌えと催促してくる。
『ブレーキいっぱい握りしめて〜』
風にのった彼女の声を聞く特等席。
帰り道、俺の後ろに乗った彼女はいつも不意に歌い出す。
この時間が好きだった。
「(…ゆっくり、ゆっくり──)」
彼女を乗せて、坂道を下る。
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玲生(プロフ) - 調べてみたらリョータと同じ市で泣いた (12月10日 22時) (
レス) @page11 id: 7f34fd14ff (このIDを非表示/違反報告)
Uo(プロフ) - なーすさん» ご指摘ありがとうございます…!!腎臓ですね…笑修正しておきます😖 (10月24日 1時) (レス) id: 64806ac4ef (このIDを非表示/違反報告)
なーす - 楽しく読んでおります。でも、２つある臓器は、肝臓ではなく腎臓です(笑) (10月17日 23時) (レス) @page33 id: 10ce8bde32 (このIDを非表示/違反報告)
Uo(プロフ) - 生粋のまよらーさん» コメントありがとうございます❕嬉しいお言葉が励みです😖リョータとの再会は力を入れなくてはですね…!続編もお時間がある時に覗いていってくださると嬉しいです…!! (2023年4月23日 1時) (レス) id: 05f236e790 (このIDを非表示/違反報告)
生粋のまよらー(プロフ) - 最高に面白くて、すぐお気に入り登録してしまいました！！メープルシロップ色の髪と目は最強ですよね……高校に入ったということはそろそろリョータにも会うんですかね？？その時が楽しみすぎて…😭これからも更新頑張って下さい！応援しています！ (2023年4月16日 21時) (レス) id: 3e4069aada (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Uo | 作成日時：2023年2月13日 14時
