@３３ ページ33
x
「桃井」
「はい」
末澤くんとさようならの言葉をどう交わそうかと思ったその時、隣に座る末澤くんに呼ばれた。
「…楽しかった？」
「はい、楽しかったです」
ありふれた質問だけど、即答した私に末澤くんは「そ」と嬉しそうに笑ってた。
楽しかった、この4年間。
本当に。
色んな出会いと、別れも経験して。
色んなこと乗り越えて。
「…東京いきたくないなぁ」
思わず漏れた一言は、隣の末澤くんには届いてしまって
「いつでも、また帰ってこればええやん」
思わず彼の方を向くと、穏やかな笑みを浮かべた
彼がそんな遠いわけやないと言った。
「車で7時間や」
「私免許持ってないです」
「新幹線で3時間や」
「3分クッキング60回見れますね」
どんな計算の仕方してんねんと笑われて、私も笑ってしまった。
…ああ、もうすぐ駅に着いてしまう。
離れたくないな…なんて、思ってしまった。
CRASH復活はもちろん嬉しいし、彼女たちが待ってるから帰るのが楽しみではあったけど…
同じ分だけここ大阪や彼らと…彼と離れるのが名残惜しかった。
「え、」
末澤くんの顔を凝視したのは、私の手の上に末澤くんの手が乗ったからで。
末澤くんはしーっと人差し指を立てると、顎で運転席の橘さんをさした。
バックミラー越しに目が合って、やばいと手を離そうとしたら末澤くんが握る手に力を込めた。
「あー夕日が眩しいと思うんでー、カーテン閉めましょっかー」
「あー俺閉めますよ」
「ありがとうございまーす」
棒読みすぎるやり取りの末、末澤くんが運転席の後ろにあるカーテンを閉めた。
もう一度、繋ぎ直される手。
「絶対デビューするから」
「はい」
「寂しくなったら、いつでも帰って来い」
「はい」
「会いたくなったら、」
"連絡してこい。会いに行ったるから"
そう言って、末澤くんは2度目のキスをくれた。
「桃井」
別れ際、車の横に立った彼は最後に私を呼んで、赤い箱をぶっきらぼうに差し出した。
新幹線の車内、末澤くんから貰った箱の中の誕生日プレゼントの手袋をつけた私を見てる橘さんはちょっと不満そうで。
「桃井さんって俺の事空気だと思ってます？」
「はい」
「ひどい！」
「生きるために必要不可欠な空気ですから。
いつもありがとうございます。これからもよろしく」
「…泣いていいですか」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 767人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：x | 作成日時：2023年9月29日 8時
