あのコ、きらい。Ⅳ (ページ26)

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「ええんですか？」

「何が」

「Aさん、帰っちゃうって」

CRASHがここへやって来たあの日より、少し寒くなった頃。

レッスン場の鏡の前でようやく東京に帰る日が決まったと、

みんなに挨拶をする桃井を一番後ろから眺めていた。

隣に来た正門もまた、寂しそうに桃井を眺めてる。

「まぁ、一生会えへんくなるわけやないし」

あいつにとっちゃ、喜ばしい第一歩のはずなのに

寂しいとか言ったら別れが辛くなるだけだから。

隣から熱視線を感じて視線を向けると、

「…ええ男ですね。そりゃ俺勝ち目ないわ」

「あ？なんなん急に」

「けど、油断したらほんまにすぐ奪いにいくんで」

そのつもりで、と正門は笑ってみんなの輪に戻っていく。

きっと、桃井のことだって分かってはいた。

うん、わかってる。正門の気持ちは。

それでも桃井のためなら、と何度も俺の背中を押してくれたこと感謝している。

ほんまにええ男なのはどっちなんやろななんて、言ってはやらんけど。

「誠也くん早く！みんなで写真撮りましょって！」

佐野に手招きされて、

半泣きのJrに絡まれ困った顔をしながらも楽しそうな桃井と目が合う。

大事で、大事だから…お前が好きやとか付き合ってほしいなんて言葉は言えなかった。

桃井も俺も、まだまだこれからやらなきゃいけないこと

目指さなきゃいけないものが沢山ある。

関西Jrとデビュー10年目の中堅グループじゃ、やっぱり示しつかねーし。

輪の中に入ると、ちょうど他のJrに呼ばれてやってきた橘さんが俺たちの目の前でカメラを構えた。

どうせ、桃井が東京に発つ当日も撮ることになりそうなのになと苦笑い。

左の端っこに立って映る俺と、ど真ん中で関西Jrに囲まれるあいつの距離を

これから俺は、頑張って縮めるから。

すぐに、追いついてみせるから。