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「桃井さん、今日…帰り時間ありますか？」
「はい？」
12月24日。
その日、ようやくクランクアップを兵庫県内で迎えた朝ドラ。
本当はもう少し早く終わるはずが、色々押してしまって年末までかかってしまった。
花束を抱える私を、疲れてるとこすみません…と橘さんが呼び止めた。
「なんでここ？」
車でやって来たのは関西Jrがいつも使うレッスン場で、
今日はレッスンがないから人も来ないだろうとここで話すことにしたそうだ。
「…宮入さんのことです」
「…はい」
「ずっと、黙っててごめんなさい」
「仕方ないですよ、上から言うなって言われてたんでしょう？」
橘さんだって、結局はサラリーマンなのだから。
床に隣合って座った橘さんは、ゆっくり首を横に振った。
「…いや、宮入さんなんです」
「え？」
「宮入さんが、桃井さんには言うなって…」
志穂が？
どうして、
「ただでさえ、1人で全部背負わせてるのに
私の病気のことまで背負わせたくないからって」
それから、橘さんは私の様子をチラチラと伺いながら、
全て話してくれた。
志穂の病気の詳しいこと、治療のこと。
『何個か試したんです、治療法。でも効かなくて…
今年の秋頃からやってた治療法にかけてました…
もし、回復傾向に至らなかったら手術しかないって』
手術の成功率は、50%
一見高いように見えるその数字だが、
要するに50%…半分の確率で、志穂が居なくなってしまう。
「…手術、するんですね？」
「はい、年明けに…予定しています」
ありがとうございました、話してくれて！と笑って立ち上がる私を、橘さんが不安げに見上げてる。
「うん、志穂なら大丈夫。絶対大丈夫」
「桃井さん、」
その時、橘さんのスマホが音を立てて鳴り出した。
きっと、仕事の電話。
「ほら、早く電話出てください
私今日買い物したいから電車で帰りますから。
お疲れ様でした！」
橘さんの呼び止める声は無視して、レッスン場を飛び出した。
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作者名：x | 作成日時：2023年9月29日 8時
