第四十話(4) ページ41
きり丸を見る。
無垢な寝顔を見せるこの子もいつか、同じように迷うのだろうか。
自分と似た境遇を持ちながら、自分とは違う強かな生き方をするこの子も。
同時に、きり丸を抱く鈴の顔が視界に入る。
さらさらと前髪や解れた髪が風に舞い、白い素肌を引き立てる。
その瞳は憂いを帯びていて。
きり丸は何故忍者を目指すのかと尋ねた彼女もまた、同じ事を考えているのだろうか。
「…何と、答えたんですか」
気が付けば、彼女にそう尋ねていた。
『人を殺めるためです』
まだ夜風が冷たい春に、鈴が零した言葉。
命を救うその術を身に着けたのは、命を奪う為だと。
真っ直ぐな瞳に昏い炎を宿して、彼女はそう言った。
きっと、彼女もまた己の手を血で染めたことが、そこまではいかずとも手を染めようとしたことのある人間なのだろう。
彼女の過去に一体何があったのか、彼女の過去の中にある何が彼女にそう言わしめているのかは半助には分からない。
分かるのは、以前話に聞いた、自身の生まれも親の顔も何もかも分からないままにその身を売られたということ。
それだけでも、辛い過去を過ごしてきたのだろうということは想像がつく。
そして、半助の想像を超える、残酷な何かが彼女を襲ったということも。
故に、あんなにも露骨に酷い憎悪や侮蔑を入り混ぜた感情を自身に向け、責めている。
未だ知らぬ人の温もりを恐れ、自ら冷たい檻の中に居続けようとしている。
けれど、それだけじゃない。
今こうやって、己の進む道に葛藤する八左ヱ門を、そこに見る将来のきり丸を思う姿も。
清八の命を懸命に救おうとするあの姿も。
清八を思い、不安に駆られる団蔵を思いやってくれたあの時も。
乱太郎達と一緒に食堂のおばちゃんが作ったおはぎを嬉しそうに頬張っていた姿も。
時折目にする、保健室に来る子ども達の話に一つひとつ丁寧に相槌を打っては聞いてくれる姿も。
相変わらずの無表情はそう簡単に崩れないし、愛想もない。
どこまでも淡々としていて、初めて忍術学園で会った時に感じた冷たい雰囲気は拭えない。
それでも、決して長いとは言えない時間を共にして分かるのは、彼女は優しい人だということ。
きっと本人に言えば、いつもの仏頂面で否定するのだろうけれど。
鈴は中庭を見つめたまま。
その視線の先を辿ると、中庭の片隅に秋明菊が秋の訪れを知らせているのが目に入った。
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ししゃもん(プロフ) - 千里丸さん» コメありがとうございます!同じ好みの方がいて嬉しいです!引き続き頑張ります!今作品が終わったら別キャラの忍たま夢にも挑戦する予定でいました。加えてシチュのリクもありがとうございます。できうる限りご期待に添えるよう取り込みたいと思います! (2019年4月1日 23時) (レス) id: 2f089d0de5 (このIDを非表示/違反報告)
千里丸 - 二度コメ失礼します。希望としては、夢主と男装夢主が同一人物であることが土井先生より先に誰か(以下A)にばれてしまい、秘密を守ってもらうためAと話すことが多くなってしまい、土井先生が嫉妬…みたいな展開が見てみたいです。ご検討いただければ幸いです。 (2019年4月1日 9時) (レス) id: 1ee468ee2e (このIDを非表示/違反報告)
千里丸 - 忍たま夢小説では数少ない作りこまれた設定、大好物です。睡蓮さんの考えるお話の設定はすごく好みなので、この小説が終わったら、忍たまの別キャラでも書いてほしいです。ご検討いただければ幸いです。とりあえず今は、「花菖蒲と蓮華草」を頑張ってください! (2019年4月1日 9時) (レス) id: 1ee468ee2e (このIDを非表示/違反報告)
睡蓮(プロフ) - たまさん» ありがとうございます!糖度低めのお話ですが、胸キュンしてもらえて嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2019年2月21日 11時) (レス) id: 2f089d0de5 (このIDを非表示/違反報告)
たま - 土井先生の夢小説を求めて辿り着きました( 〃▽〃)これからも胸キュンストーリーを楽しみにしてます! (2019年2月21日 0時) (レス) id: 01fbcb5691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ししゃもん | 作成日時:2019年2月9日 13時