第三十九話(2) ページ35
土井先生に分けてあげたいぐらいだ、とタカ丸は言う。半助の髪について一悶着でもあったのだろうか。
元髪結いということもあり、タカ丸は軽やかな口調で世間話を次々と繰り出してくる。
鈴はその話一つひとつに頷いたり返したりしながら、口下手な自分とは正反対だな、などとぼんやり考える。
すっすっと流れるかのように櫛が髪を梳く感覚。
痛みもなく、不愉快でもない、心地よい程度で髪を引かれる力具合。
髪に優しく触れるその手つき。
心地よい、と思う。
他人に髪を触れられるなんてこと、今まで一度もなかった。
他人どころか自分自身でさえ髪など無頓着で、邪魔だったら手元の短刀で適当に切っていたし、結ってしまえば邪魔にならない部分であれば放っておいていた。
それがまさか、こんな風に他人に髪を梳かれる日が来るとは。
伊助からタカ丸の実家は町で人気のカリスマ髪結いと聞いてはいたが、この心地よさはそれ故の技術なのだろうか。
タカ丸の話を聞きながら、鈴は髪を梳かれる心地よさを感じていると、タカ丸の口から驚くような発言が零れた。
「そういや、鈴さんはどうして男装して龍さんをやっているんですか?」
「……!」
驚いた。
思わず振り返りそうになるのを堪える。それではまるで彼の言葉を肯定してしまうことになるから。
どうして知っている…?
先程まで緩めていた緊張感を一気に引き締めて、鈴は身構え、考える。
すると、タカ丸は小さく「ひっ」と悲鳴を上げて手を止めた。
疑念や疑惑。それは相手を敵にするには十分な条件だ。
それらを抱き敵とみなす可能性がある以上は、そこに殺気が結びつく。
つまりは、ついさっきまで穏やかだったこの部屋に一瞬で鈴の殺気が部屋を満たし、タカ丸は明確にそれが殺気だと気づいたかどうかは別にしても己の身の危険を察知したのだろう、故に小さな悲鳴を上げたのだった。
伊助からは、タカ丸は6学年と同じ年齢だが、忍者としての知識がないために4年生に編入したのだと聞いた。
忍としての知識がない、一般人だった彼が何故、忍術学園の先生ですら気付かない鈴と龍の関係に気づいたのか。
それは彼が1年生ではなく4年生に編入した、そのことと関係があるのだろうか。
考えを巡らせたところで答えは出ず、そのまま黙っているとタカ丸が「あのう…」と気まずそうに話しかけてきた。
「あの、僕なんか気に障ることでも言いましたか…?」
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ししゃもん(プロフ) - 千里丸さん» コメありがとうございます!同じ好みの方がいて嬉しいです!引き続き頑張ります!今作品が終わったら別キャラの忍たま夢にも挑戦する予定でいました。加えてシチュのリクもありがとうございます。できうる限りご期待に添えるよう取り込みたいと思います! (2019年4月1日 23時) (レス) id: 2f089d0de5 (このIDを非表示/違反報告)
千里丸 - 二度コメ失礼します。希望としては、夢主と男装夢主が同一人物であることが土井先生より先に誰か(以下A)にばれてしまい、秘密を守ってもらうためAと話すことが多くなってしまい、土井先生が嫉妬…みたいな展開が見てみたいです。ご検討いただければ幸いです。 (2019年4月1日 9時) (レス) id: 1ee468ee2e (このIDを非表示/違反報告)
千里丸 - 忍たま夢小説では数少ない作りこまれた設定、大好物です。睡蓮さんの考えるお話の設定はすごく好みなので、この小説が終わったら、忍たまの別キャラでも書いてほしいです。ご検討いただければ幸いです。とりあえず今は、「花菖蒲と蓮華草」を頑張ってください! (2019年4月1日 9時) (レス) id: 1ee468ee2e (このIDを非表示/違反報告)
睡蓮(プロフ) - たまさん» ありがとうございます!糖度低めのお話ですが、胸キュンしてもらえて嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2019年2月21日 11時) (レス) id: 2f089d0de5 (このIDを非表示/違反報告)
たま - 土井先生の夢小説を求めて辿り着きました( 〃▽〃)これからも胸キュンストーリーを楽しみにしてます! (2019年2月21日 0時) (レス) id: 01fbcb5691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ししゃもん | 作成日時:2019年2月9日 13時