第三十八話(5) ページ30
「女だ、黙っていて悪かったな」
着替えを見られたというのに、恥ずかしがる訳でもなく、女だと打ち明けているのに悪びれているわけでも無く龍は普段の無表情のまま、淡々と言ってのける。
「男の方が何かと便利でな、仕事をする時は男の『龍』としてやっているんだ」
「男の『龍』、ということは本当の名があるのか?」
尋ねてから、龍として仕事をしているのだからそう簡単は教えてくれないか、と思ったが「鈴だ」と案外簡単に教えてくれたので、利吉は思わず拍子抜けした。
「女の姿の時にお前を見かけたこともあるぞ、まぁこちらには気づいていないようだったがな」
「はぁ!?」
驚く利吉に、鈴は意地悪そうに口角を吊り上げる。
「まぁ、特別隠しているわけでも深い事情があるわけでもないんだ、気にしないでくれ」
利吉が己の正体に気付いたことに何かしら負い目を感じているのだろうと鈴は思ったのか、そう話すと軽くふん、と鼻を鳴らした。
それが彼女なりの気遣いだということは利吉にもすぐ分かった。
「分かったよ。今度は『鈴』の時にも声を掛けてくれよな、じゃないと分からないままお茶に誘ってしまうかもしれないからな」
彼女の気遣いを無下にする必要はない。
そう冗談を言えば、「何だ、私には茶をご馳走してはくれないのか」と鈴は軽く肩を竦めて見せた。
※
龍が女だと知っても、2人の関係は変わらないように思っていた。
だが、龍とは気が合う友だという事に加え否応がなく女と知ったことで色々と意識してしまう事、加えてあの美しい容姿。
次第に異性として惹かれ始め、利吉の龍に対する友としての好意が鈴に対する恋心に変化するにはそう時間はかからず、結果、利吉は鈴に秘かな想いを抱く現在に至ることとなった。
※
「…と、いうわけで母上が心配しておられます。今度の休みには帰ってあげてください」
鈴と別れ、利吉は父である伝蔵の部屋で机に向かったままの伝蔵の背中に今まで何回も口にしてきた言葉を投げかける。
「分かった分かった、仕事が一段落したらな」
返ってきた言葉もまた、今までに何度聞いたことか。
「だから、いつ仕事が一段落するんです?」
「んなこと仕事に聞いてみなくちゃ…」
「ほぉら!全然帰る気なんてないんですから」
「そんなことない!」
「そんなことあります!」
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ししゃもん(プロフ) - 千里丸さん» コメありがとうございます!同じ好みの方がいて嬉しいです!引き続き頑張ります!今作品が終わったら別キャラの忍たま夢にも挑戦する予定でいました。加えてシチュのリクもありがとうございます。できうる限りご期待に添えるよう取り込みたいと思います! (2019年4月1日 23時) (レス) id: 2f089d0de5 (このIDを非表示/違反報告)
千里丸 - 二度コメ失礼します。希望としては、夢主と男装夢主が同一人物であることが土井先生より先に誰か(以下A)にばれてしまい、秘密を守ってもらうためAと話すことが多くなってしまい、土井先生が嫉妬…みたいな展開が見てみたいです。ご検討いただければ幸いです。 (2019年4月1日 9時) (レス) id: 1ee468ee2e (このIDを非表示/違反報告)
千里丸 - 忍たま夢小説では数少ない作りこまれた設定、大好物です。睡蓮さんの考えるお話の設定はすごく好みなので、この小説が終わったら、忍たまの別キャラでも書いてほしいです。ご検討いただければ幸いです。とりあえず今は、「花菖蒲と蓮華草」を頑張ってください! (2019年4月1日 9時) (レス) id: 1ee468ee2e (このIDを非表示/違反報告)
睡蓮(プロフ) - たまさん» ありがとうございます!糖度低めのお話ですが、胸キュンしてもらえて嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2019年2月21日 11時) (レス) id: 2f089d0de5 (このIDを非表示/違反報告)
たま - 土井先生の夢小説を求めて辿り着きました( 〃▽〃)これからも胸キュンストーリーを楽しみにしてます! (2019年2月21日 0時) (レス) id: 01fbcb5691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ししゃもん | 作成日時:2019年2月9日 13時