第三十七話(3) ページ21
相変わらず、表情は乏しいけれど、丁寧に一つひとつ話を聞いては返してくれる鈴に半助は心が弾むと同時にどこか穏やかにもなるのを感じていた。
そうして暑さも忘れて立ち話に夢中になっていた時。
「鈴!?」
驚いたように彼女の名を呼ぶ声。
鈴の肩越しに見えたのは、よく見知った若い男の顔。
「やあ」と半助が彼に挨拶をしようとしたが、それよりも先に聞こえたのは先程まで自分と会話していた女の声だった。
「利吉!?」
振り向き様、ふわりと鈴の艶やかな黒髪が揺れる。
何故かそれが半助にはとてもゆっくりに見えた。
利吉、と親しげに彼女に呼ばれた男…山田利吉は驚いた顔のままこちらに駆け寄って来る。
そして、鈴の前に立つと目の合った半助にいつも通りの簡単な挨拶をする。
半助も普段と同じように返すと、利吉の視線はすぐに鈴へと移った。
「鈴、どうして君がここに?」
「それはこっちの台詞だ。利吉こそ、どうして忍術学園にいるんだ?」
「どうしてもこうしてもないさ、私は父上に会いにきただけだ」
そう言われ、鈴は「父上?」と首を傾げた。
「父って、お前の姓は確か…まさか、山田先生?」
「そうだ」
「…母方の血が濃いのだな、きっと」
「正直に似ていないと言って構わない、言われ慣れてるさ」
「目は似ているぞ」
それもよく言われる、と利吉がため息混じりに笑う。
鈴も半助の聞いたことのないくだけた口調で、親しげに利吉と言葉を交わす。
どことなく、表情も普段より柔らかいように見えるのは気のせいではないのだろう。
そう思いながら、目の前で会話を繰り広げる2人の姿を見ていると、何故か半助の中の何かが乱暴に掴まれたかのような痛みを感じた。
胃痛にも似ているが、きりきりと痛むあの感覚とは少し違う、どちらかというと吐き気に近いような不快感。
それは、以前鈴と清八が仲良く会話していたあの時に感じた靄のような不愉快さと似ていた。
同時に、焦燥感も。
一体何に焦りを抱くのか、それは半助には分からない。
「えっと…2人は知り合い、なのかな?」
不快なこの感覚を振り払うかのように、半助は口を開くと、口の中が乾いているのに気がついた。
見知った2人に話しかける、それだけのことなのに妙な緊張を覚えるのは何故なのだろう。
「ええ、以前仕事で」
半助の問いに答えたのは利吉だった。
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ししゃもん(プロフ) - 千里丸さん» コメありがとうございます!同じ好みの方がいて嬉しいです!引き続き頑張ります!今作品が終わったら別キャラの忍たま夢にも挑戦する予定でいました。加えてシチュのリクもありがとうございます。できうる限りご期待に添えるよう取り込みたいと思います! (2019年4月1日 23時) (レス) id: 2f089d0de5 (このIDを非表示/違反報告)
千里丸 - 二度コメ失礼します。希望としては、夢主と男装夢主が同一人物であることが土井先生より先に誰か(以下A)にばれてしまい、秘密を守ってもらうためAと話すことが多くなってしまい、土井先生が嫉妬…みたいな展開が見てみたいです。ご検討いただければ幸いです。 (2019年4月1日 9時) (レス) id: 1ee468ee2e (このIDを非表示/違反報告)
千里丸 - 忍たま夢小説では数少ない作りこまれた設定、大好物です。睡蓮さんの考えるお話の設定はすごく好みなので、この小説が終わったら、忍たまの別キャラでも書いてほしいです。ご検討いただければ幸いです。とりあえず今は、「花菖蒲と蓮華草」を頑張ってください! (2019年4月1日 9時) (レス) id: 1ee468ee2e (このIDを非表示/違反報告)
睡蓮(プロフ) - たまさん» ありがとうございます!糖度低めのお話ですが、胸キュンしてもらえて嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2019年2月21日 11時) (レス) id: 2f089d0de5 (このIDを非表示/違反報告)
たま - 土井先生の夢小説を求めて辿り着きました( 〃▽〃)これからも胸キュンストーリーを楽しみにしてます! (2019年2月21日 0時) (レス) id: 01fbcb5691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ししゃもん | 作成日時:2019年2月9日 13時