完結【忍たま・土井夢】花菖蒲と蓮華草 4

第三十一話（2） ページ2

よくよく目を凝らすと男の腰に刀が差してあるのが分かり、龍は整えられた道を外れ、声のする方向へ一直線に背の高い葉が生い茂る野原へと駆け出す。

だが、急がば回れとはよく言ったもので背高く生い茂る葉が中々か先へと進ませてはくれない。

「生意気な口叩いてるんじゃねぇよ！大人しくそいつを寄越しな！」

「絶対に！い、や、だ！死んでも離すもんか！」

「あぁ？じゃあ死ぬか、小僧！」

男の苛立った声と物騒な発言に、龍はまずいと生い茂る葉を手で退けるのをやめて、顔に葉がいくつも当たるのを構わずに進む足を速めた。

がさりと音を立てて抜けた先、そこには3人の男と地面に尻餅をつきつつも、銭の入った袋を抱えて男達を睨みつけるきり丸の姿があった。

「り、龍さん！？」

「お前ら…何をしている」

なりふり構わず走ったものだから、口に入ってしまった葉を唾とともに吐き捨てて龍はきり丸の前に立つ男を睨みつける。

1人は刀を抜こうとしたのか、鯉口に手をかけており、その事にますます龍の目がつり上がった。

「あぁ？何だよ、お前」

茂みから突然現れた龍に男達は初めは驚くものの、華奢な龍の身体つきを見てか、その視線は段々と卑しいものへと変わる。

「こいつの兄貴か？随分と綺麗な顔して…」

下卑た笑みを浮かべ男が近づくと、ばさっと何かが地面に落ちる音。

「えっ？う、うわぁ！？」

地面に落ちたのは、近づこうとした男の袴。
褌姿を晒す事になった男が真っ赤になって情けない声を上げると、その場に蹲る。

「い、いつの間に！？」

見れば龍の手には鞘から抜かれた刀があり、男の袴の腰紐を知らぬ間に切ったのだと知らせている。

「退け」

ゆっくりと刀を構えながら、龍は静かに言う。
華奢だと侮ったその身体からは、背筋が凍るほどの殺気。
鋭い眼光が男3人を捉えている。

「ひ、ひいっ…！」

慌ててその場を去っていく男達。
その背中が小さくなるのを見送り、刀を鞘に収めると龍は座ったままのきり丸に駆け寄った。

「大丈夫か？きり丸」

「え、あ、はい！この通り！ちょっと突き飛ばされて尻餅ついちゃったけど。それよりも龍さん、その顔！大丈夫っすか！？」

途中から顔に当たる葉を払いのけるのを止めて走ったものだから、龍の顔には葉が当たりできた小さな切り傷が複数あった。

第三十一話（3）→←第三十一話（1）※アニメ第16期46話参照

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