第二十話(2) ページ47
「それは…違います。確かに戸部先生の剣術は鋭くて力強いけど、戸部先生はそれだけじゃなくて優しくて時々暖かくて、お腹が空くと力が出なくて…あっ」
半助の言わんとしたことが分かったのだろう。
金吾は、はっ、として目を少し大きくした。
半助はそれを見て「そうだ」と頷き、ぽんと肩に手を乗せた。
「確かに龍君の剣術には少し怖いものもあったかもしれないが、それくらい強いってことだ、金吾も見ていて分かっただろう?」
「はい。確かに、戸部先生とは違う強さを感じました」
「だからって、金吾が龍君みたいに慣ればそれくらい強くなれるかというと別の話だ。いつだったか、戸部先生の真似をした時もそうだったじゃないか」
以前、金吾が戸部先生のように強くなるには、真似をすればいいのではないか、と剣術だけではなく性格まで似せようとしたことを思い出し、そう言うと金吾も同じく思い出したようで「はい…でもそれじゃダメでした」と頷いた。
「いい所を真似ればいいんだ。人のいい所を沢山学んで、金吾なりに身につければいい。それが金吾の剣術になる、私はそう思うよ」
「いい所を、真似る…」
「それに、」
すっと視線を龍にやると、金吾もつられて龍を見る。
子ども達に囲まれて、相変わらずの無表情の中に戸惑いが見て取れた。
けれど、無下にはしようとしない。
そこに彼の人となりが見える。
「本当に龍君が怖い人だと、思うかい?」
裏山で一緒に昼食を取った時は?
その後一緒にサッカーをした時は?
喜三太が彼の話をしていた時、喜三太はどんな顔をしていた?
ふるふると、金吾が頭を振る。
その行為が意味していることは明白だった。
「…僕も龍さんとお話ししてきます!」
吹っ切れたように、ぱっと顔を明るくして金吾は半助にお辞儀すると、龍に向かって駆けていき、龍を囲むは組の子ども達に混ざった。
それを見て、半助は安堵の息を吐く。
金吾にした話は嘘ではない。
剣術がその人となり全てではない。
そんな剣を振るうようになった、その背景が何かしらある。
「怖かった、か…」
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作者名:ししゃもん | 作成日時:2018年10月30日 10時