第二十話(1) ページ46
学園長の「解散!」という号令から、わらわらと人集りが散り散りになっていく。
牧ノ介はというと、「もう1回だ!」とじたばたと足掻いていたのだが、他の先生方に取り押さえられて去っていった。
それを見計らって、は組の生徒達がわぁっと龍の元に駆けていく。
しかし、金吾だけは駆けていこうとせず、遠目から生徒達に囲まれている龍を見ているだけだった。
「なんだ、金吾。行かないのか?」
意外な人物が残ったな、と半助が不思議に思って金吾を見ると、何やら一人複雑そうな顔をしている。
どうかしたのか、と尋ねると「あの、その…」とごにょごにょと言葉を濁らせた。
そして、少しだけ言い辛そうに声を小さくする。
「その、何というか…龍さん凄かったんですけど…怖くって」
「え?だが、この間喜三太と一緒に裏山で昼飯を…」
「そうじゃなくて!上手く言えないけど、龍さんの…刀を構えた時の龍さんが」
そこまで言われて、金吾の言いたいことが分かった。
龍が木刀を構え直したその時にはっきりとした『恐怖』、おそらくそれを金吾も感じ取ったのだろう。
金吾は他の生徒によりも、戸部に稽古をつけてもらっていることもあり、剣術に長けている。
だからこそ、分かったのだろつ、相手の持つその剣の性質を。
実際、今龍を囲んでいるのは1年生だけで、逆に6年生などは近寄ろうとはせず、緊張した面持ちで彼を遠目に見たり、ひそひそと何かを話したりしていた。
流石に具体的な何かを感じ取るまではいかなかったものの、金吾も困惑の色を浮かべていた。
同室の喜三太は龍に懐いているし、きっと色々な話を聞いているのだろう。
先日、一緒に裏山で過ごした時には、きっと喜三太が懐く理由を身をもって実感したのだと思う。
だからこそ、今日感じた龍への怖さとの落差が激しくて、迷っているのだ。
どちらが、本当の彼なのだろう、と。
「…何も、剣術だけがその人の全てではないだろう」
屈んで目線を合わせてやれば、金吾も俯き加減だった視線を半助に合わせてくる。
「え?」
「戸部先生だって、そうだろう?剣術から感じ取るものだけが戸部先生そのものか?」
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作者名:ししゃもん | 作成日時:2018年10月30日 10時