完結【忍たま・土井夢】花菖蒲と蓮華草 2 (ページ45)

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第十九話（4）ページ45

「龍君のあの構えは…」

先程より緊張度のある声で再度戸部が呟く。
半助が黙って続きを待つと、戸部が「ううむ」と唸った。

「どうされました？」

「龍君のあの構え、見たことがありません、どこの流派でもない…独学でしょうか」

龍から視線を外さずに話す戸部に連れられて、半助も戸部から龍に視線を戻す。
戸部ほど剣術の流派などは詳しくないものの、半助から見てもはっきりと分かることがある。

「隙が全くありませんな…」

山田も同じ事を思ったらしく、ぼそりと言葉を零した。

静かに構える龍は隙が見当たらない。
感情の読み取れない瞳は、心の奥底が冷えるような感覚を覚えさせる。
それは、生物としての本能に直接訴えてくるもの。
その命を脅かす、死を予感させる、純粋な『恐怖』。

思わず生唾を飲み込んだ。
だが、牧ノ介は気にした風でもなく、「むむっ、やっとやる気になったか」とにやりとする。
それは単に彼の神経が図太い故だろうか。

大声を上げて向かっていく牧ノ介、次の瞬間、勝負はあっという間についてしまった。

「…速い」

思わず呟く。
突きつけられた剣先。
牧ノ介相手じゃなくても、分かる。
龍は強い。
無駄な動きなど一切無かった。
確実に相手の命を仕留める為だけの動き。
ぞっとするまでに正確。

会場にいる誰もが、詳しくは分からずとも、得体の知れない恐怖を感じたのだろう、しんと静まり返る。
それを破ったのは、豪快に笑う学園長の声。
そして、わぁっと歓声が響く渡った。