第十二話(10) ページ16
「大丈夫ですか?」
「まぁ、ただの神経性胃炎だから」
「神経性って…心労ですか」
「あはは、まぁね」
苦笑いする半助に、土井先生も苦労しているんだな、と龍は思う。それと同時に保健室の薬品棚に胃炎に効く薬草がなかった記憶を巡らしていた。
「保健室に行かれたらどうです?薬があると思いますが」
「う、ううん…保健室ねぇ…」
『保健室』という言葉を聞いて、半助の表情が曇る。
その顔は、以前清八を見舞いに来た時の帰り際にも見た覚えがあった。
鈴が何かしたのだろうか、それとも保健室に何か?
清八とは親しげに話していたから、考えられるのは鈴が何か粗相でもしでかした可能性だった。
さて、何かしただろうかと思案を巡らせていると、「龍君は動物って飼ったことあるかい?」と不意に尋ねられた。
「え?」
唐突な問いに首を傾げると、「何だかね」と半助は話を続ける。
「やっと懐いてくれた猫が、他の人にも懐くようになってしまったような、妙に寂しいような気分でね」
「は、はぁ…」
話の意図が読めず、何と返したらいいものなのか龍は戸惑う。
何故突然に猫?
「土井先生、猫飼ってるんですか…」
「あ、いや、なんというか、物の例えだよ、ははは」
今ひとつ何が言いたいのか分からないのだが、困ったように鼻を掻くその顔には少し暗く見え、
…似合わない。
などと、ふと思ってしまう。
龍の知る限りではあるけども、いつも柔和な笑みを浮かべてる半助だからだろうか、そんな表情はしないでほしい、と。
「例えそうであっても、その猫が土井先生を嫌いになったわけではないと思いますよ」
まるで慰めるかのように出た言葉。
何を話しているんだ、と自分でも思いながらも、半助の暗い表情を見ていると黙ってもいられなかった。
「だから、元気出したらどうですか」
「はは、元気ないように見えたかい?」
小松田くんにも言われたんだよなぁ、と苦笑いする半助に龍は頷く。
「いつものように、なんと言いますか…へらへらしてる方が土井先生らしいかと」
「へらへらって、君…」
上手い言葉が見つからず言ったのだが、いい例えではなかったようで、「失礼だなぁ」と半助にムッとされてしまった。
「あぁ、その、表情が子ども達みたいにくるくる変わる所です、土井先生らしい」
「私が?」
「ええ、珍しい方だなと思っていたんです」
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作者名:ししゃもん | 作成日時:2018年10月30日 10時