2.抑制 ページ2
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「あ、のんちゃん走ってる!」
Aの華やかな声で、ふと我に帰る。
その視線の先ではのんちゃんがリレーを走っていて、やっぱりイケメンは何してても様になるなあと少し羨ましく思ってしまう。
「のんちゃん頑張れー!」
チクリ。
何かが、俺の心を刺しては小さな傷をつける。
「あ、次流星やん!流星も黙って走ってたらかっこええのになあ」
抑えろ、俺。
何も言うな。黙れ。
息をしろ。顔に出すな。
落ち着け。
「なあとも、とももそう思わへん?」
「ん、あー。ほんまにな。勿体無いよなあ。」
「なー…あ、一位やんすご!」
…なんとか堪えた。偉い、俺。
ふ、と小さく息を吐くと、横にいたAが「ていうか暑いー」と呟いた。
「大丈夫か?っていうかはよ学ラン脱いだらええんちゃうか」
「んー、そうするー…」
こくんと頷いて歩き出すAが何故俺の学ランなのかというと、先程の団体競技が色別対抗応援合戦やったから。
そして俺の学校では、男子が女子に学ランを貸すという、唯一俺が心から愛している伝統がある。
…何故かというと、まあお察しの通り、毎年俺のぶかぶかの学ランをAが着るっていう心躍る展開があるからで。
ああ、ほんま可愛いなあ。
他の子に比べて一回り小さい背中も、
今日の為に鮮やかな赤色に塗った幼い爪も、
化粧したいけど肌荒れするからすっぴんのままの顔も、
頑張って派手にしようとしたけど不器用で出来なくて友達にやってもらった髪も、
俺が一つ開けてあげたピアスホールがある耳も、
全部全部、好き。
Aの全てを愛してる。
徐に呟いた時、Aの身体がぐらりと揺れる。
「…A?」
夏の陽に輝く黒い髪が、スローモーションで揺れて、
Aは、動かなくなった。
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作者名:DRaG , | 作成日時:2017年10月25日 17時