匂い（ini side） ページ3
「おはよ、乾。」
「おはようございます。」
俺が座っていたデスクの後ろをふらっとAさんが通る。
「ん、香水替えました？」
鼻に届いた慣れない甘い香りに咄嗟に反応してしまった。
「え？あ、私？香水はつけてないけど。」
「今日めっちゃ甘い匂いしますよ。」
「なんだろ？柔軟剤とか？」
目の前で、くんくん自分の匂いを嗅ぎだしたAさん。
「ちょ、やめてください。めっちゃ変な人です。」
その姿に思わず笑ってしまったけど、
甘い匂いの正体が気になる。
いつもは、どちらかというときりっとした
匂いのする人だったから。
香水じゃないにしろ、何か替えたんだろうな。
「あ！そうそう、シャンプーだわ。」
思い出したように、長い髪を自分の鼻にもってきて、
息を吸い込んでいる。
ついでに、俺の顔の前で髪をバサバサと振って、
甘い匂いを振りまいてくれた。
「この匂いっすね。」
「甘すぎる？」
「いや、いつもと違う匂いしたから、ん？と思って。
この匂い、全然Aさんのイメージにないから。」
行動はふんわりしているところが多いけど、
身なりは結構クールな大人の女性。
「えー、そうかな。じゃあ、前のに戻そうかなー。」
「いやいや、そのままでいいですよ！」
そんな話をしていると、いつの間にか隣に座って、
持っていたお菓子を開けて食べ始めているAさん。
余ったもう一つの方を、くれるというので有難くいただく。
「男の人ってさ、こういう甘い匂い好きじゃないのかな？」
「え？なんすか、唐突に。」
「気になっただけ。」
いきなりオフィスで、仕事中にする話ではない気もするが、
集中も切れているし、Aさんとの話に頭を向ける。
「そんなの、好みなんで人それぞれでしょ。
男が一律みんなジャスミンの香り好きとか
気持ち悪くないっすか？」
「あはは、確かに。」
そうだよね、と相槌を打ちながら、
肘をついてじっと一点を見つめている。
何か考えていそうで、珍しい光景。
「ちなみに、乾はどんなシャンプー使ってんの？」
「俺？俺は、メンズの適当なやつ。
シャンプーの匂いなんか気にして買ったことないですよ。」
Aさんは、理科の実験の溶液の匂いを確認するように、
俺の頭上をひらひらを手の平で仰いで匂いを嗅ぎ始めた。
「マジで、おかしいから。
俺、臭い人みたい。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 176人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：琥珀 | 作成日時：2024年2月5日 2時
