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血の流れが悪かったのか、立ち上がると同時にふらついた。
王子様みたいに抱きとめはしなかったけど、優しいその人は腕を出してくれた。
有難く掴んで、体のバランスが整うまでの壁代わりになってもらおう。


やっぱり具合悪いんじゃん、の言葉には立ちくらみだと返した。

体重をかけてしまうことを申し訳なく思っているので、どうしても弱々しい返事になる。そのせいでまた強がりだと思われたかもしれない。支えてくれている腕に、少しだけ力が入ったのがわかった。


痩せ型と評したのは誤りだったようだ。
腕一本に負荷がかかっているのにそれほど苦しそうではないし、掴んだ時にわかったが筋肉もあって意外としっかりとしている。
スポーツマンなのか、ジムで鍛えているのか__後者ではない気がした。この人の口ぶりから見るに、ジムなんて行きそうにない。


なんとなくふらふらも収まり、一言お礼を言って手を離す。
今更だが、異性の体に触れたのは暫く振りだったのを思い出した。こんな風にさっと腕が出せるのだから、きっとこの人は女性の相手に慣れているのだろう。
普段の日常を暮らしていたら、一介の女子高生の相手などしてくれない人のような気さえした。


一瞬の間が空いて、互いに口を開いた。
私が「帰ります」と言うより先に、その人が喋り出す。第一声は、やはり優しさが滲んでいるように感じた。



「散歩か徘徊かはどうでもいいけどさ、もう1時なんだから家帰ったら? どこ? 神社のとこのムスメ?」
「……あっちの県道沿いの方」
「結構遠いじゃん。親呼ぶ?」
「普通に寝てるし。あとスマホないんで……」
「今時スマホ持たないJK居るのかよ……」
「勢いで出て来ちゃったから」
「なるほど……馬鹿なんだ……」


コンマ数秒の差が、私たちに会話のキャッチボールをさせてくれた。


呆れた声を上げられてもなお楽しんでしまうのはなぜだろう。
クラスメイトよりも楽に会話ができていることが不思議で仕方なかった。

きっと、いつもの生活に戻ったらもう会うことはないのだろう。そのことがわかっているだけに、惜しく思ってしまうのだ。まだ、この人と色々な話がしてみたいのに。


「県道出るまで着いてく。ヒョロいけどJKひとりよりはマシでしょ」


下心がないその言葉に、安心して謝意を示した。根拠はないけど、この人は信じていいと思えた。

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作者名:あをいけ | 作成日時:2020年5月31日 21時

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