夜殺し【国見英】 (ページ5)

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夜と男ページ5

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息を止めて、その次に目を閉じた。だが、その目はすぐに開くことになる。

「あの、だいじょうぶっすか」

綺麗な声が、話しかけてきた。
そうか、夜が選んだのは声の美しい死神だったのか。
心配するところから会話を始めてくれる思いやりのあるタイプらしい。死に際まで私はツイているようだ。

とりあえず、優しさには応えることにした。
声のおかげか、幾分恐怖も収まり、自然と顔もあげることができた。

「だいじょうぶ、です……」

街灯の逆光によって顔はよく見えなかったが、どうやら痩せ型の若い男のようだった。
だらしない体型のおじさんじゃないだけマシと考えるべきなのだろうなと、失礼承知で考える。
それに、イケメンじゃなくたって、声が綺麗なのだから目を閉じていれば最悪どうにかなる。

腹を括るまでは至らないが、なんとか少しの勇気が出て来た。
大丈夫。人生どうせなんとかなるんだから、死んだってきっといい感じにどうにかなるはずだ。

ぐるんぐるんの思考を持ったまま黙っていた私を見て、逆光のまま死神さん(仮)は顔を覗き込んできた。
そして、私の「大丈夫」を強がりだと思ったらしい。

「ちょっと行ったとこに自販機あるんで、なんか買って来ます？具合悪いなら無理に動かない方がいいすよ」

どうやら、本気で体調不良者だと思われているようだ。
この優しさも、なにか後で見返りを求めるだとかそんな下心でできたものには見えなくなってきた。
もしかして、さっきまでの恐怖は杞憂だったということか。

これ以上的違いの優しさを受け取るわけにもいかず、おそらく自動販売機がある神社の方へ向かおうとした死神(ではなさそう)さんを呼び止める。
具合が悪いわけではないので大丈夫です。そう言うと納得したのか、方向転換してこちらへ帰って来た。

怯えていた心が落ち着いて、やっと優しいその人を直視できるようになった。
街灯との差で身長が高いとわかる。
遠目に服装と顔の小ささが確認できた。スキニーにパーカーという楽な装いが似合ってしまうスタイルの良さである。
声が綺麗で、その上スタイルが良いなんて、そんな人がテレビや雑誌以外で存在するのだなとしみじみ思った。

だんだんと近づいてくる顔に俄然興味が湧いた。
イケメンだったら面白い。すぐ呑気に物事を考えてしまうのは私の悪い癖である。

街灯に照らされたその人の顔は、面白半分で想像していたイケメン像を蹴散らすように綺麗に整っていた。